日本国内でも多発している災害への備えとして、重要性の高まりを見せている非常用発電機。
記録的な大雨や地震などが激甚化する中で、企業はどのような非常用発電機を導入すべきなのでしょうか?
本記事では、非常用発電機の基礎知識・設置基準を解説します。
非常用発電機の定期点検の詳細な内容も、あわせてご覧ください。
目次
そもそも非常用発電機とは
非常用発電機とは、予期せぬ事故・災害が発生し、建物への電力供給が停止した際に電力を供給する設備です。
非常用発電機は、業務用で大容量の設備から家庭用のポータブル電源まで豊富な製品が各社から発売されています。
非常用発電機を導入する際のポイントの詳細は後述するものの、電力供給が途切れてから72時間の稼働が可能な設備を選ぶのがひとつの基準です。
72時間という基準が浸透したのは、総務省が「地方公共団体における業務継続性確保のための非常用電源に関する調査結果」で、人命救助の観点から72時間が重要と発表したのがきっかけ。
万が一の事態が発生した際は、企業と公共団体が協力して乗り切る体制構築への配慮も求められています。
非常用発電機の設置が必要な3つの背景とは?
非常用発電機は、災害・事故への備えになるほか、BCP対策や節電対策といった活用方法があります。
本章では、非常用発電機の設置が必要な3つの背景を解説します。
背景1.災害の激甚化に非常用発電機で備える
国際連合広報センターが「気候危機-勝てる競争」という記事を発表したように、近年では地球規模の気候危機(気候クライシス)が注目を集めています。
そんな中で、非常用発電機の設置が義務化されている特定の建物以外でも、非常用発電機の導入を検討する企業が増加。
いつ・どこで発生するかわからない自然災害への備えとして、非常用発電機の活用を検討しているのです。
自然災害の壊滅的な状況から無傷ではいられない状況の中では、今後も非常用発電機を導入する動きは加速するでしょう。
背景2.非常用発電機がBCP対策に有効
BCPとは、自然災害・事故が発生した際に、事業を早期に復旧させるための「事業継続計画」です。
BCP対策が求められるようになった背景は、平成22年6月の「新成長戦略」で、2020年中に大企業のBCP策定率100%・中堅企業50%を目指すのを閣議決定したことです。
さらに、経済産業省 資源エネルギー庁では「災害時に備えた社会的重要インフラへの自衛的な燃料備蓄の推進事業費補助金(災害時に備えた社会的重要インフラへの自衛的な燃料備蓄の推進事業のうち石油製品利用促進対策事業のうち石油ガス災害バルク等の導入に係るもの)」を開始。
非常用発電機の導入に必要なコストを補助する仕組みを構築し、自主的なBCP対策の構築を促進しています。
非常用発電機に利用できる補助金は「非常用発電機の利用可能な補助金を紹介!令和3-4年度・5年度の情報も」でも解説しています。
背景3.コージェネレーション構築に使用
コージェネレーションは、発電時に生じる排熱を回収するシステムであり、経済産業省 資源エネルギー庁では、下記のように定義されています。
コージェネレーション(熱電併給)は、天然ガス、石油、LPガス等を燃料として、エンジン、タービン、燃料電池等の方式により発電し、その際に生じる廃熱も同時に回収するシステムです。
回収した廃熱は、蒸気や温水として、工場の熱源、冷暖房・給湯などに利用でき、熱と電気を無駄なく利用できれば、燃料が本来持っているエネルギーの約75~80%と、高い総合エネルギー効率が実現可能です。
コージェネレーションシステムは、工場・商業施設・病院・家庭などと幅広い分野で活用されています。
コージェネレーションシステムが、一次エネルギーやCO2の削減に有効なためです。
コージェネレーションシステムの構築には、自家発電設備が必要であり、常用・非常用を兼ねた発電機を導入するケースが増えています。
燃料別に見た3種類の非常用発電機の仕組みとは
非常用発電機は、使用する燃料に応じたメリットとデメリットがあります。
本章では、燃料別の非常用発電機の仕組みとともに、それぞれのメリットやデメリットを解説します。
どの燃料方式が自社に向いているのかを検討する際にお役立てください。
1.回転エネルギーを電力に変換「ガスタービン式非常用発電機」
ガスタービン式は、ディーゼルエンジン式に比べて黒煙・振動・騒音が少なく、機器自体も小さいのが特徴です。
ガスと圧縮機で高温高圧となった空気でタービンを回転させ、回転エネルギーを電力に変換する仕組みです。
ガスタービン式は、機器の価格が高く、給気・排気風量がディーゼルエンジン式より多い点がネック。
給排気風量が多い発電機は、大きな排気ダクトや給気用ガラリの設置が必要となるため、建物によっては大規模な工事が必要になる場合も想定されます。
ディーゼル式とガスタービン式を選定するときは、建物の規模がポイントのひとつです。
500kVA以下のような小中規模な建物にはディーゼルエンジン式、500kVAを超えるような大型施設にはガスタービン式といったように選定すると良いでしょう。
2.軽油でエンジン稼働「ディーゼルエンジン式非常用発電機」
ディーゼルエンジン式は、20kVAほどの小型機種から1,000kVA以上の大型機種まで、幅広い種類の非常用発電機があるのが特徴です。
ガスの爆発による熱エネルギーをピストン往復運動に変換し、クランク軸によって回転運動に変え電力を発生させる仕組みです。
ディーゼルエンジン式は燃焼する際に黒煙を放出し、運転時には振動や騒音が大きいという問題があるものの、比較的費用が安いため多くの企業で導入されています。
ただし、ディーゼルエンジン式は冷却装置を設置する必要があり、設置場所はある程度の広さが必要です。
建物によっては、設置が困難な場合もあるため、設置面積が十分にあるかも含めて検討しましょう。
3.蓄電池を搭載「ハイブリッド型非常用発電機」
ハイブリッド式は、ガスタービン式・ディーゼル式に蓄電池を搭載した非常用発電機です。
燃料を使用した発電中には蓄電池を充電し、充電が完了すると蓄電池からの電力供給に切り替える仕組みです。
通常の発電機と比較して、より長時間の電力供給が可能なため、燃料補給の手間が少ないのがメリット。
ハイブリッド式の中には、複数の燃料に対応している非常用発電機もあります。
ガソリンとガスに対応した非常用発電機の場合は、ガソリンを使いきった後は、災害時に強いと言われるLPガスへの切り替えが可能です。
蓄電池や複数燃料に対応した非常用発電機は、災害時の様々な事態に対応しやすく、事業の早期復旧に役立ちます。
目的別に見た非常用発電機の種類
非常用発電機は、どのような設備に電力を供給するかによって、3種類に分類されます。
非常用発電機をどのように位置づけるかによって、関連する法令も異なるため、導入する際は電力の供給先も検討しましょう。
なお、本章で解説する内容は「内発協ニュース4月号 通巻第145号」を参考にしています。
種類1.防災設備が対象「防災専用非常用発電機」
防災専用非常用発電機は、誘導灯・非常用照明・消火設備などの防災設備への電力供給が目的です。
関連する法令は下記の5種類。
- 電気事業法
- 消防法
- 地方自治体が制定した火災予防条例
- 建築基準法
- 大気汚染防止法
防災専用非常用発電機は、災害の早期発見・早期対処が目的です。
設置する際は、使用する照明をLED化をはじめとした省エネ対策によって、非常用発電機を長期に活用できます。
大気汚染防止法を含めた非常用発電機の導入に必要な届出は「【消防法参照】非常用発電機を設置の際に必要な届出とは?」で解説しています。
種類2.保安設備が対象「保安用非常用発電機」
保安用非常用発電機は、企業が独自に定めた保安用設備に電力を供給するのが目的です。
保安用の関連法令は、下記のように防災専用よりも1種少なくなります。
- 電気事業法
- 消防法
- 地方自治体が制定した火災予防条例
- 大気汚染防止法
保安用設備には、エレベーター・冷凍設備・救命設備などが該当します。
保安用は、必要になる電力が大きいため、大容量の非常用発電機を導入するのが一般的です。
種類3.防災・保安設備に対応「防災用・保安用共用非常用発電機」
防災用・保安用共用非常用発電機は、防災設備・保安設備の両方に電力を供給するのが目的です。
関連法令は、防災専用と同様の下記5種類です。
- 電気事業法
- 消防法
- 地方自治体が制定した火災予防条例
- 建築基準法
- 大気汚染防止法
防災用・保安用共用は、保安用よりもさらに大容量の発電機が必要です。
しかし、防災専用・保安用と比較して、より幅広い事態に対応できるのがメリット。
上記の背景もあり、防災用・保安用共用非常用発電機を導入するケースが増加しています。
非常用発電機に関連する3つの設置基準とは?
非常用発電機の設置基準は、消防法・建築基準法・電気事業法によって定まっています。
使用用途や出力容量、点検などが法令によって義務付けられているため、非常用発電機を設置する場合には注意しましょう。
本章では、非常用発電機の設置基準を解説します。
なお、非常用発電機の関連法令は「非常用発電機は消防法に基づく点検が必要!関係法令や必要な届出を解説」でも解説しています。
設置基準1.特的の建築物が対象「消防法」
消防法の対象になるのは、災害時に非常用発電機が必要な消防用設備があり、延べ床面積1000平方メートル以上の商業施設・病院・オフィスビルなどです。
新たに非常用発電機を設置する場合は、消防用設備の非常電源として設けられた規制をクリアした上で所轄の消防署に届け出ます。
非常用発電機の設置後は、消防法が管轄する下記3つの点検を実施します。
- 法定点検:年に2回実施
- 機器点検:6ヶ月に1回(正常動作確認・機器の損傷確認)
- 総合点検:年に1回(総合的機能確認・30%以上の負荷運転点検)
各点検は、点検結果報告書と点検票を作成した上で、消防機関に点検報告をしなければなりません。
企業の中には、自家発電設備や蓄電池を備え、消防法の設置基準がある「認定キュービクル」を導入する場合も。
認定キュービクルの詳細は「消防法のキュービクルの設置基準とは?届出や認定・推奨の獲得方法も」をご覧ください。
設置基準2.防災設備のある建築物が対象「建築基準法」
建築基準法では、非常用発電機が必要となる防災設備を有する建物に設置基準を設けています。
新設時にクリアすべき基準は、おもに下記の3つです。
- 非常用照明の点灯確認(40秒以内に電圧確立・30分以上の連続運転)
- 蓄電池触媒栓が有効期限内であること
- 液漏れがないこと
さらに建築基準法では、建築士や建築設備点検資格者によって半年~1年周期で点検を実施し、特定行政庁への点検報告を義務付けています。
特定行政庁とは、建築基準法特有の言葉であり、建築行政を扱う機関のこと。
各市町村もしくは都道府県に設置されているため、該当する自治体に確認して提出しましょう。
設置基準3.非常用発電機を電気工作物として取り扱う「電気事業法」
電気事業法では、常用・非常用どちらの発電機も電気工作物として位置づけられています。
電気事業法で電気工作物とされるのは、以下の条件を満たした発電機です。
- 内燃機関(エンジン)を備えている
- 10kw以上の発電容量がある
- ガスタービン式の発電機
設置する際には、電気主技術者の選定と届出を提出した上で、適正な状態を維持・管理するために月次点検や年次点検を実施します。
電気技術者は、自社で雇用する必要はないため、アウトソーシングも含めて検討を進めます。
非常用発電機を導入する際の3つのポイントとは?
非常用発電機を導入する際、非常時に稼働させる機器の選定や、必要な電力を明確化する必要があります。
なぜなら、必要な電力が明確でなければ、非常用発電機の容量を決定できないためです。
非常用発電機は、振動・騒音・吸排気などを考慮した、設置場所の決定も重要項目でしょう。
本章では、非常用発電機を導入する際のポイントを3つ解説します。
ポイント1.必要量より多めの容量の非常用発電機
非常用発電機の導入時は、緊急時に稼働させたい機器をリスト化した後に、その機器の稼働に必要な電力を把握する必要があります。
使用電力を算出する際は、起動時の消費電力を含めて検討するのがポイント。
たとえば家庭用のエアコンであっても、通常時は300~500W程度で稼働するものの、起動時は約1,500Wが必要です。
上記のように、機器によっては起動時と通常運転時の必要電力が大きく異なります。
ただし、メーカーが公表している数値は、あくまで参考値である点に注意しましょう。
起動時の状況や環境によっては、必要電力が増す可能性もあるため、非常用発電機の容量は必要量よりも多いものを選ぶと安心です。
ポイント2.非常用発電機の設置場所を最適化
非常用発電機の設置場所は、設置の可否だけで決めてはいけません。
なぜなら、非常用発電機は稼働時に振動・音を発するほか、燃料保管場所も必要になるためです。
近年では、騒音に配慮された非常用発電機も登場しているものの、共鳴や共振で騒音が大きくなる可能性もあります。
さらに、燃料は種類ごとに保管できる容量や期間が定められているため、適した場所・広さを検討しなければなりません。
非常用発電機の設置場所は、本体を設置できるかだけでなく、周囲への配慮や燃料についても含めて検討しましょう。
ポイント3.メンテナンス依頼業者を選定
非常用発電機は、万が一の事態が発生したときに確実に稼働できるよう、常日頃からメンテナンスすることが大切です。
非常用発電機の、メンテナンスや点検は専門業者に依頼するのが一般的。
業者に依頼することで、人件費やメンテナンスにかかる手間を大きく削減できるためです。
非常用発電機のメンテナンスを外注する際は、適正価格を提示する業者を選ぶのがポイントです。
非常用発電機のメンテナンス価格は「非常用発電機になぜメンテナンスが必要?点検項目や費用なども解説」をご覧ください。
非常用発電機に定期点検が必要な2つの理由とは?
非常用発電機は、定期的な点検を怠る・虚偽の申請をした、といった場合に関連法令で罰則が定められています。
それでは、罰則を設けるほどに定期点検を求める理由は何なのでしょうか。
本章では、非常用発電機に定期点検が必要な2つの理由を解説します。
理由1.災害時に非常用発電機が必ず動くとは限らない
自家用発電設備等の安全性・信頼性の向上を目指す「一般社団法人 日本内燃力発電設備協会」は、東日本大震災の非常用発電機の稼働状況を調査しています。
同団体が発表した「内発協ニュース 3月号 通巻第120号」によると、不始動・停止の台数は合計で233台。
さらに、233台のうちの60台が異常停止したことが判明しています。
異常停止した60台の非常用発電機が、定期点検を実施していたかは定かではありません。
しかし、定期点検はいざというときの異常を防止するのに役立つのは事実です。
経済活動はもとより、命を守るためにも、非常用発電機の定期点検は必ず実施しましょう。
理由2.非常用発電機の定期点検は義務化されている
事業者の非常用発電機の点検を促進するために、消防法では、点検の義務化及び未実施の際の罰則が設けられています。
具体的な罰則は以下の通りです。
- 未実施・虚偽を報告した建物の所有者・管理者:30万円以下の罰金もしくは拘留
- 非常用発電機の管理業務担当者:最高1憶円の罰金および刑事責任に問われる
しかし、厚生労働省が発表した「病院の非常用電源の確保及び点検状況調査の結果」では、多くの病院が点検を実施していない実態が明らかになりました。
同文書では、点検時の瞬間停電に対するリスクがある点も言及しています。
しかし、近年では瞬間停電のリスクのない点検方法が一般的です。
点検方法は次章で解説しますが、非常用発電機が確実に作動できるよう、定期的な点検の実施が求められています。
非常用発電機の2つの点検方法とは?
非常用発電機の定期点検は、点検にかかるコスト・点検中の瞬間停電が大きな課題です。
しかし、2つの課題を解決できる点検方法もあります。
本章では、非常用発電機の2種類の点検方法を解説します。
なお、非常用発電機の点検方法は「実負荷試験と模擬負荷試験の違いとは?非常用発電機の点検周期も解説」でも解説しています。
点検方法1.非常用の発電機・設備を実稼働させる「実負荷試験」
実負荷試験とは、非常時に稼働させる機器を実際に使用して非常用発電機を点検する方法です。
実負荷試験のメリットは、非常用発電機の点検と同時に防災・保安設備の動作点検もできること。
デメリットは、コストの高さと瞬間停電です。
実負荷試験は、防災・保安設備と同時に非常用発電機を稼働させるため、多くの人材を配置しなければなりません。
さらに、交流電源から非常用発電機へと切り替える際には瞬間停電のリスクも付きまといます。
防災・保安設備だけでは、実負荷試験に必要な負荷をかけられない場面もあるでしょう。
そこで、近年では次章で解説する「模擬負荷試験」を実施する動きが活発化しています。
点検方法2.非常用発電機の模擬動作で検証「模擬負荷試験」
模擬負荷試験とは、試験用の装置を非常用発電機に接続し、負荷をかけて点検する方法です。
模擬負荷試験は、電力源の切り替えが不要なため、瞬間停電のリスクがありません。
試験用装置の使用は、人件費や非常用発電機に与える負荷という観点からもメリットがあります。
模擬負荷試験に必要な人材配置は、非常用発電機と試験用装置のみのため、人件費は抑えられます。
試験用装置は与える負荷を調整できるため、定格での点検だけでなく、災害時に負荷が急変した事態を想定した点検も可能です。
模擬負荷試験は、人件費・瞬間停電といった課題を解決できる点検方法です。
非常用発電機の安全な運用に不安を感じる方へ
本記事では、非常用発電機の仕組み・設置基準・導入時のポイントなどを解説しました。
非常用発電機は、緊急時に機器へ電力を送り、人命を守るのが役割です。
実際に、スプリンクラーや医療機器などは、電力がなければ稼働できません。
BCP対策の一環として、非常用発電機を導入する企業も増えているため、この機会に検討してみましょう。
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