ロープ高所作業とは、ロープを使った昇降器具で身体を固定し、高所で作業を行うことを指します。
足場作業と比較して時間・金銭的なコストが低く抑えられる一方、労働災害が多発しているのが現状です。
本記事ではロープ高所作業のメリット・デメリットと、安全な業者の条件について解説します。
厚生労働省では労働安全衛生規則等を改正し、特別教育を行うことを義務付けました。
ロープ高所作業者に関する資格や特別教育を知ることで、安心して業者に作業依頼ができます。
ロープ高所作業の依頼を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
目次
ロープ高所作業とは
ロープ高所作業とは、高さ2m以上の建築物で足場などの設置が難しい場合に、ロープを使った昇降器具によって身体を保持しつつ行う作業を指します。
四十 高さが二メートル以上の箇所であつて作業床を設けることが困難なところにおいて、昇降器具
(労働者自らの操作により上昇し、又は下降するための器具であつて、作業箇所の上方にある支持物
にロープを緊結してつり下げ、当該ロープに労働者の身体を保持するための器具(第五百三十九条の
二及び第五百三十九条の三において「身体保持器具」という。)を取り付けたものをいう。)を用い
て、労働者が当該昇降器具により身体を保持しつつ行う作業(四十度未満の斜面における作業を除く。
以下「ロープ高所作業」という。)に係る業務
ロープ高所作業は、ビルの外装清掃や法面保護工事などに採用されるのが一般的です。
ロープ高所作業には、以下の3種類の方法があります。
- ゴンドラ:ゲージと呼ばれる箱の中に作業員が入り、上からつり下げながら作業する方法
- ブランコ:ロープでつり下げたブランコ状のイスに座り、作業する方法
- ロープアクセス:救急隊員も利用している特殊なロープ技術で体を支え、作業する方法
2016年にロープアクセスが認可されるまではゴンドラやブランコが主流でした。
しかし、ロープアクセスが認可されてからは、コストの安さや安全性の高さからロープアクセスへの注目が高まっています。
※ロープアクセスについて詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
ロープアクセス工法(無足場工法)とは?メリット・デメリットを解説
ロープ高所作業のメリット・デメリット
ロープ高所作業とよく対比されるのが、ロープを使わない仮設足場作業や高所作業車による作業です。
それぞれメリットとデメリットを把握し、対象の建築物に合った方法を選びましょう。
ロープ高所作業のメリット・デメリットを解説します。
メリット
ロープ高所作業には、以下のようなメリットがあります。
- 足場もトラックもいらないので狭い場所でも作業ができる
- 足場を組む必要がないのですぐに作業が終わる
- 少ない人数で短期間で終わるため、費用を安く抑えやすい
日本の土地は狭く、特に都心部では隣の建物とのすき間がほとんどないという場合も少なくありません。
足場が組み立てられず、作業車も入れない狭い場所でのロープ高所作業は非常に便利です。
足場を組む必要がないので短時間で作業が終わり、作業員も少なく済むので人件費も安く抑えられます。
足場を設置する場合や高所作業車に比べて、時間や費用のコストが少なく済むのも大きな魅力です。
デメリット
ロープ高所作業のデメリットは、主に以下の3つです。
- 屋根や屋上からつり下がれない場合は作業できない
- 大規模な建築物の作業には向かない
- 作業者の技術と教育が不足すると安全性に問題が出る
ロープ高所作業は、屋根や屋上からロープをつり下げる必要があるため、そもそも屋根や屋上にロープをつり下げる環境がない場合は作業が行えません。
作業範囲も上からつり下がった作業員の手が届く範囲に限られるので、広範囲の作業になると効率が下がります。
また、ロープ高所作業員には、安全に作業するための専門知識と熟練した技術が求められます。
法に準拠して作業を行わないと、事故のリスクが高いという点もデメリットです。
※ロープアクセスのメリット・デメリットについては、以下の記事も併せてご覧ください。
無足場工法とは?足場を組まない工法のメリット・デメリットを紹介
ロープ高所作業の規定が改正
ロープ高所作業に従事する者は、熟練した技術を備えていないと安全に作業を行うことができません。
厚生労働省は、高さ2メートル以上の箇所で作業を行う場合には、労働者の身を守るために作業床を設けることを義務付けています。
一方で、作業床の設置が困難な箇所で行うロープ高所作業には、安全帯の使用など労働安全衛生関係法令などを参照し指導を行ってきました。
実際のロープ高所作業による事故多発例は、以下の表をご覧ください。
ビルメンテナンス業 | 建設業 | 合計 | |
2009年 | 0件 | 4件 | 4件 |
2010年 | 5件 | 0件 | 5件 |
2011年 | 1件 | 2件 | 3件 |
2012年 | 1件 | 1件 | 2件 |
2013年 | 2件 | 2件 | 4件 |
2014年 | 4件 | 2件 | 6件 |
合計 | 13件 | 11件 | 24件 |
(データ引用:厚生労働省)
2009年から2014年までのロープ高所作業での死亡者数は合計24人と後が絶ちませんでした。
身体を保持するロープが外れる(ほどける)、安全帯を外す(接続せず)、ロープが切れるなど原因の96%は、ロープに問題があったことによる『墜落』です。
そこで厚生労働省は、2016年に『労働安全衛生規則』を改正し、ロープ高所作業を行う場合の条件を新たに設定しました。
これらの条件を満たしているかどうかは、安全な業者を見分ける基準の1つにもなります。
ロープ高所作業に必須の資格・特別教育
では、ロープ高所作業に従事する業者には実際にどのような資格や特別教育が課されているのでしょうか?
労働安全衛生規則で決められている条件は、主に以下の8つです。
- ライフラインを設置している
- メインロープ等の強度が十分である
- 危険防止のための調査と記録を行っている
- 作業計画を行っている
- 作業指揮者がいる
- 安全帯・保護帽を着用している
- 作業を開始する前に点検をしている
- ロープ高所作業の教育を実施している
(参考:厚生労働省)
今後、ロープ高所作業を業者に依頼する場合は、これらの項目を基準に安全な業者かどうか判断してみてください。
それぞれの条件を解説します。
1. ライフラインを設置している
ロープ高所作業では、労働安全衛生規則第539条の2でライフラインの設置が義務付けられています。
ライフラインとは、身体保持器具を取り付ける『メインロープ』とは別の安全帯を取り付けるためのロープのことです。
作業員は、必ず2本のロープを装着することになりました。
(画像引用:厚生労働省)
万が一メインロープに不具合が生じても、安全帯を通じてライフラインと繋がっているため、落下したりケガをしたりせずに済みます。
近年、作業風景をホームページやSNSで公開している企業も増え、安全性への意識が高い企業はライフラインの設置を明言していることも多いです。
2. メインロープ等の強度が十分である
ロープ高所作業では、身体保持器具を装着するためのメインロープや、安全帯を装着するためのライフライン、これらを結び付けるための緊結具、接続器具を利用します。
労働安全衛生規則第539条の3では、これらの器具が十分な強度を持っており、著しい損傷・摩耗・変色・腐食がないことを条件としています。
メインロープとライフラインの使い方についても、安全な昇降のために以下の措置が指定されています。
- メインロープとライフラインは、ぐらつかない頑丈な支持物にそれぞれ別に固定する
- メインロープとライフラインは、作業員が安全に昇降するための十分な長さがある
- 壁に出っ張りなどがある場合、カバーをするなどしてロープを保護する
- 身体保持器具は、メインロープに合った接続器具で確実に装着する
(画像引用:厚生労働省)
ロープの強度についてもホームページやSNSで公開している企業も多いです。
必要に応じて情報収集してみることをおすすめします。
3. 危険防止のための調査と記録を行っている
ロープ高所作業では、屋根や屋上にロープを強固に固定する場所があり、かつ切断などのリスクがないことが条件です。
労働安全衛生規則第539条の4では、危険防止のためにあらかじめ作業場所を調査し、以下の内容などを記録することが義務付けられています。
- 作業する場所やその下の状況
- ロープを取り付ける支持物の状態
- 作業する場所から支持物までの間の状況
- 切断の恐れのある箇所の有無など
作業前に以上4点を調査しているかどうかは、安全な業者かどうかを見極める1つの指標となります。
4. 作業計画を行っている
労働安全衛生規則第539条の5では、ロープ高所作業を行う場合、上記3の調査結果にもとづいて作業計画を立てることが義務付けられています。
具体的には、作業方法や順序、作業者の人数、ロープを設置する箇所、使用するロープなどの種類、切断の防止策の設定などです。
作業計画については、業者に見積もりを依頼した後に共有してもらえます。
安全策を具体的に説明してくれる業者かどうかも、信頼できる業者を選ぶ1つのポイントです。
5. 作業指揮者がいる
労働安全衛生規則第539条の6では、ロープ高所作業全体の監視や指揮を行う作業指揮者が必要と記されています。
作業指揮者の役割は、安全措置が確実に実施されているかを確認することです。
依頼者側が事前に作業指揮者を確認するのは難しいかもしれません。
しかし、契約前の段階で作業員同士の連携が取れているかどうかを観察することは、業者を見極める1つの判断材料になります。
6. 安全帯・保護帽を着用している
ロープ高所作業では、作業者に安全帯と保護帽を身に付けさせることが労働安全衛生規則第539条の7・8で決められています。
現場で安全帯や保護帽の着用を怠る業者も少なくありません。
装着違反をする業者は安全への意識が非常に低いといえます。
ホームページやSNSで普段の作業風景を閲覧し、安全帯や保護帽を着用しているかどうか確認しましょう。
7. 作業を開始する前に点検をしている
ロープ高所作業を実施する際は、作業開始直前にメインロープやライフライン、接続器具、安全帯や保護帽などに破損や劣化がないか確認する必要があります。
事前に道具を点検しているかどうかを、依頼者側が確認することは困難です。
しかし、事前の相談やホームページで道具をどのように点検しているか確認するのもおすすめです。
8. ロープ高所作業の教育を実施している
労働者をロープ高所作業に関する業務に就かせる際は、労働者が安全に業務を行うための特別教育を実施することが労働安全衛生規則で条件とされています。
具体的には、以下のような内容です。
科目 | 内容 | 時間 |
ロープ高所作業についての座学 |
|
1時間 |
メインロープ等についての座学 |
|
1時間 |
労働災害の防止についての座学 |
|
1時間 |
法令関係についての座学 |
|
1時間 |
ロープ高所作業の実習 墜落による労働災害防止のための措置 安全帯と保護帽の取扱い |
|
2時間 |
メインロープ等の点検 |
|
1時間 |
(データ引用:厚生労働省)
安全かつ正しいロープアクセスの普及、技術の発展のために設立された法人もあります。
「一般社団法人 日本ロープアクセス工法研究会」や「一般社団法人 日本産業用ロープアクセス協会」などです。
検定や講習会に参加すると、資格証・証明書を発行している法人も多いため、作業員が保有しているかどうか事前チェックしましょう。
※安心と信頼があるロープアクセス業者をお探しなら、以下の記事をご覧ください。
ロープアクセス技術に強い会社13選|調査・作業場所や特徴も紹介
資格・特別教育を修了したロープ高所作業業者を選ぼう
ロープ高所作業は、足場の設置が不要なため、狭い場所でも作業できるのが特徴です。
短期間かつ予算を抑えて作業を依頼したいなら、おすすめの作業方法といえます。
以前は、ロープの点検ミスなどによる災害事故が多発していました。
しかし、ロープ高所作業の規定が改正されたことで、ロープ高所作業の安全性が保たれるようになりました。
趣味のロッククライミングやツリークライミングとは異なり、安全が確保された産業用のロープを使用するため心配不要です。
もちろん、安心してロープ高所作業を依頼するためには、事前チェックは欠かせません。
依頼前にホームページやSNSでロープ高所作業に関する資格や特別教育を修了しているか確認してみてください。
本記事を参考に、信頼できる安全なロープ高所作業の業者を見つけましょう。
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