赤外線調査とは、特殊なカメラで撮影した画像を分析し、外壁の安全性を確認する方法です。
しかし「赤外線調査は本当に信頼できるのか」と不安になる人もいるのではないでしょうか。
本記事では、外壁の赤外線調査の基礎知識・メリット・デメリットを解説します。
外壁調査が必要な背景や費用の目安もあわせてご覧ください。
目次
外壁の定期的な調査は法的に義務化されている
一定以上の人数が利用する「特殊建築物」には、新築・修繕から10年経過した時点で、毎年の外壁調査が義務付けられています。
特殊建築物の例としては、病院・ホテル・百貨店・アパートなどです。
外壁調査の目的は、外壁に蓄積されたダメージの確認・修繕による落壁事故の防止。
建築物の利用人数が増えるほど、落壁が発生した場合のリスクが高くなるため、定期的な調査が必要なのです。
建築基準法第12条では、定期的な外壁調査とともに、調査後の報告も義務づけられています。
外壁調査の実施で満足してしまい、報告書を提出し忘れないよう、注意しましょう。
【基礎】外壁の赤外線調査とは?
外壁の赤外線調査とは、その名の通り、赤外線を使用した調査方法です。
しかし、赤外線はなぜ外壁調査に活用できるのでしょうか。
赤外線による外壁調査の詳細を、以下の2つの視点から解説します。
1.赤外線調査とはサーモカメラによる外壁調査方法
赤外線調査では、サーモカメラを使用して、建物から放射される赤外線エネルギーの測定・分析を行う方法です。
サーモカメラで外壁を撮影し、温度が均一であれば正常な状態と判断でき、逆に温度にムラがあれば異常があるといったように見分ける仕組みです。
サーモカメラで撮影した映像は、紫・紺・青・緑・黄色・赤・白で色分けされているため、壁面の細かな状態も分析可能。
なお、色は紫に近い色であれば低温を、白に近いほど高温を示します。
しかし、周囲の環境によって熱が集中している場合があるため、熱画像を的確に分析するための専門的かつ熟練した知識・技術が必要です。
2.赤外線で効率的な外壁調査が可能
外壁の打診調査と赤外線調査を比較してみましょう。
外壁の打診調査とは、専用のハンマーで壁を叩く方法です。
打診調査は、調査箇所の環境や天候に左右されにくく高精度な検査結果に期待できる反面、コストは高くなりがち。
赤外線調査は、天候や調査箇所に水濡れがあった場合は検査結果の精度が低くなる可能性がありますが、足場が不要なため低コストで実施できます。
赤外線調査の精度は、依頼する業者の知識や経験の豊富さに左右されがちな点にも注意が必要でしょう。
サーモカメラで撮影した画像の分析結果は、経験や知識が豊富なほど精度の高さに期待できるためです。
なお、外壁の打診調査は「外壁打診調査とは?調査対象や方法を詳しく解説」で詳しく解説しています。
外壁の赤外線調査費用は150~350円/㎡が目安
赤外線調査の費用目安は、500平方メートル以上の場合で150~350円ほどです。
単価に差が生じる原因は、おもに以下の3つ。
- 調査する外壁の面積
- 建築物の構造
- 検査箇所の遮蔽物の有無
たとえば平らな外壁で、調査面積が広い上に遮蔽物がなければ単価は安くなります。
凹凸がある・遮蔽物がある・調査面積が狭いなどの場合は、単価が高くなりがち。
調査単価は外壁調査会社が使用する機材によって異なるケースもあるため、業者の見積もりを比較する方法が確実です。
赤外線調査の3つのメリットとは?
打診調査と赤外線調査では、どちらが自分に合っているのかで悩む人も多いでしょう。
メリットは、調査方法が自分に適しているかの確認に役立ちます。
該当するメリットが多いほど、赤外線調査が適していると判断できるためです。
本章では、赤外線調査のメリットを3つ解説します。
メリット1.赤外線調査は足場が不要で低コスト
外壁調査に足場を使用した場合は、調査費用よりも足場費用のほうが高くつくケースもあります。
足場には、材料費のほかに、足場の設置・撤去に人件費がかかるためです。
赤外線調査は足場が不要なため、足場の材料費と人件費を削減可能。
赤外線調査は、低コストな上に確実性の高い外壁調査方法です。
メリット2.短期間で赤外線調査が可能
赤外線調査は、現場での作業が短期間で終了します。
赤外線調査の現場作業は、サーモカメラで調査箇所を撮影するのみで済むためです。
撮影に失敗すると何度か撮影する場合もありますが、作業が何日間も続くわけではありません。
災害発生後の緊急時の調査は、赤外線調査が効率的かつ確実です。
メリット3.高所でも赤外線調査は安全性が高い
詳しくは後述しますが、近年では赤外線カメラを搭載したドローンで撮影するケースも一般的になりつつあります。
高所の作業にゴンドラやブランコなどを使用した場合は、作業者が転落するリスクがある上に、コストも高くなりがちでした。
しかし、ドローンを使用すると作業員の安全性が確保できて、赤外線調査の低コストというメリットを損ねずに済みます。
赤外線調査の2つのデメリットとは?
赤外線調査には、もちろんデメリットも存在します。
場合によっては、デメリットが致命打となり、赤外線調査を断念せざるを得ない場合も。
調査箇所の環境や状態がデメリットに該当しないかは、必ずチェックしましょう。
デメリット1.赤外線調査の結果は天候に左右されやすい
赤外線調査は、外壁の細かな浮きや割れを判別できない場合があります。
赤外線カメラの精度次第で、細かい温度変化を捉えられない可能性があるためです。
赤外線調査は、検査箇所に直射日光や水濡れなどがあった場合に、分析の精度が低くなる点にも要注意。
たとえば検査箇所に、直射日光が当たっている部分とそうでない部分があった場合では、境目の分析は困難です。
直射日光による温度変化なのかが判断できないため、劣化・損傷があったとしても分析結果に反映されません。
天候の変化が激しい・日光の当たり具合に差があるなどの場合は、赤外線調査は不向きと判断しましょう。
デメリット2.建築物によっては赤外線調査が実施できない
赤外線調査は、建物から離れての撮影が必要なため、隣接する建物との距離が近い場合は撮影が困難です。
外壁が鏡面仕上げの場合は、外壁に映りこんだ建物・電柱・反射熱がカメラに映るため、サーモカメラでの撮影枚数が増加。
赤外線調査の低コストというメリットを損ねる原因になりかねません。
赤外線調査は、検査対象となった建築物が、上記に該当しないかを確認した上で依頼しましょう。
低コストかつ確実な外壁調査、ロープアクセス工法とは?
赤外線調査は確かに低コストですが、デメリットが存在するのも事実です。
一方でロープアクセス工法は、打診調査と組み合わせることで、より高精度かつ低コストな調査が可能。
本章では、ロープアクセス工法がどんな調査方法なのかを解説します。
1.ロープアクセス工法は足場不要で外壁調査
ロープアクセス工法とは、作業員が2本のロープで身体を支えながら調査する外壁調査です。
打診調査の1種ですが、これまでの打診調査と大きく異なるのは、足場の設置が不要な点。
足場は設置と撤去が必要になり、コストが高くなってしまいます。
ロープアクセス工法は足場を必要としないため、低コストな外壁調査が可能です。
足場の設置にはどれくらいの費用が必要かは「外壁塗装や屋根の工事に必要な足場の値段は?相場や計算方法も解説」をご覧ください。
2.短期間工事にはロープアクセス工法
ロープアクセス工法が工期の短縮を実現できる理由は、下記の2つです。
- 足場の設置・撤去が必要ない
- 起動性に優れる
従来の足場工法では、足場の設置・撤去に3日間、打診調査に3日間必要でした。
しかし、ロープアクセス工法に必要なのは、調査に必要な2日間のみです。
足場工法では、足場から手が届きにくく、十分な打診調査ができない箇所が存在することも。
ロープアクセス工法は機動性に優れ、壁面を自在に動き回れます。
結果的に調査が効率的に行われるため、足場の設置・撤去期間だけでなく、調査期間の短縮が可能です。
3.ロープアクセス工法は安全性も高い
ロープアクセス工法は、習得するために訓練を要しますが、安全性の高さが認められています。
たとえば、国道298号の橋梁点検。
ロープアクセス工法は、安全性と機動性に優れた調査方法として採用されています。
採用された理由のひとつが、ロープアクセス工法がレスキュー隊が用いている高度なロープ技術であり、高い安全性が確保されているため。
近年では、足場工法を用いた調査に必要だった、道路の使用許可が不要な点にも注目が集まっています。
外壁調査が必要な建築物の周囲に、交通量が多い道路があっても、ロープアクセス工法には影響しません。
ロープアクセス工法は、低コストかつ安全性・機動性に優れ、周囲の道路環境に左右されない外壁調査方法です。
なお、ロープアクセス工法は「ロープアクセス工法(無足場工法)とは?メリット・デメリットを解説」でも解説しています。
赤外線調査によくあるQ&A
外壁の赤外線調査に多い、以下5つの疑問に答えます。
- 赤外線調査で雨漏りは調べられる?
- 赤外線調査でタイルのダメージがわかるのはなぜ?
- ドローンを使用した赤外線調査とは?
- 赤外線調査に向く・向かない建築材料とは?
- 赤外線調査以外で低コストに外壁調査する方法は?
外壁の赤外線調査を依頼する前の、不安解消にお役立てください。
1.赤外線調査で雨漏り箇所の特定はできる?
赤外線調査で雨漏り箇所の特定が可能です。
雨漏りがある場合、水滴が落下するような雨漏りでなくても、天井や壁に水分が染み込んでいます。
水分が染み込んでいる天井や壁は、ほかに比べて低温になるため、判別できる仕組みです。
赤外線調査は、短期間で天井や壁を壊さずに雨漏りの有無を調べられるのがメリット。
一方で、雨天時は使用不可・調査できない建築材料があるといったデメリットもあります。
赤外線調査を依頼するときは、必ず事前調査を受け、調査が可能かどうかを確認しましょう。
赤外線調査が可能な建築材料や不可能な建築材料は「赤外線調査に向き・不向きな建築材料とは?」で詳しく解説します。
2.赤外線調査でタイルのダメージがわかるのはなぜ?
サーモカメラで撮影すると、外壁の温度差がわかるのは赤外線調査とはサーモカメラによる外壁調査方法で解説した通りです。
タイルが正常な場合は、タイル全体に熱が均等に分散されます。
対して、割れや剥離がある場合は、温度が周囲に分散されません。
つまり、タイルに異常があれば、部分的に熱がこもりやすいためサーモカメラによる撮影が有効ということ。
赤外線調査は、目視では確認できない外壁のダメージを調査し、落壁事故の予防に効果を発揮します。
3.ドローンを使用した赤外線調査とは?
最近では、ドローンに赤外線カメラを搭載して撮影する工法が広がりつつあります。
ドローンは天候に左右されやすく、皇居のように飛ばすのが禁止されている区域があるのがネック。
しかし、条件を満たせば、作業員の安全を確保しながら精度の高い調査ができるのが特徴です。
特に活躍するのは高所の撮影。
高所の撮影は、より精度の高い分析を行うために、高所作業車を使って行う場合があります。
高所作業車の使用は、作業員の落下リスクがあるうえに、コストも高くなりがち。
ドローンを活用すると、作業員は落下リスクがなく、高所作業車のコストが不要になります。
今後、技術がさらに進歩すると、より精度の高いドローン調査が可能になるでしょう。
4.建材に赤外線調査の向き・不向きはある?
赤外線調査向きの建築物・建築材料は以下の通りです。
- モルタル・ALC(軽量気泡コンクリート)の外壁
- 屋根材・壁材が建物に直貼りになっている建物
- 隣の建築物との距離が5m以上ある
- 全面が道路に面している
上記のような条件を満たしていれば、熱が集中している箇所が少ないため、より精度の高い赤外線調査ができます。
続いて、赤外線調査に不向きな建築物・建築材料を紹介します。
- 金属系の屋根・外壁
- 光沢のある屋根・外壁
- 屋根材・壁材と建物の間に空間がある建物
- 隣の建築物との距離が4m未満
金属系の建築材料は熱を吸収してしまいますし、光沢があれば熱を反射してしまうため、精度の高い赤外線調査ができない可能性があります。
さらに、屋根材・壁材と建物の間に空間がある場合も要注意です。
屋根材・壁材と建物の間にある空間は、建築物内の気温や湿度の調整がしやすい反面、赤外線調査に必要な熱量を得られない可能性があります。
隣との距離が近い建物は、隣の建物が放射する熱の影響を受けやすいため、赤外線調査の精度が落ちます。
調査する建築物に、どんな材料が使用されているか・どんな環境かを確認するようにしましょう。
5.赤外線調査以外で低コストに外壁調査する方法は?
赤外線調査以外で、低コストな外壁調査は、ロープアクセス工法と打診調査を併用する方法があります。
前述したように、ロープアクセス工法は機動性・柔軟性の高さと、足場不要の低コストさが特徴です。
一方で、打診調査は高精度な検査結果に期待できる方法です。
つまり、ロープアクセス工法と打診調査を併用すると、低コスト・短期間・高精度な外壁調査が実現するということ。
足場工法とロープアクセス工法のコストを比較すると「ロープアクセス事業」に掲載している通り、大きな差が生じます。
赤外線調査が難しい場合や、高精度な外壁調査を希望する場合は、ロープアクセス工法と打診調査の併用を検討するといいでしょう。
外壁の赤外線調査をご検討中の方へ
今回お伝えしたポイントは以下の3つです。
- 赤外線調査は効率的な外壁調査方法
- 赤外線調査には向き・不向きがある
- ロープアクセス工法による打診調査は低コストかつ確実に外壁調査可能
株式会社ギアミクスでは、ロープアクセス工法による外壁調査を承っております。
短期間で低コスト、より確実な外壁調査をご所望の方は、お気軽にお問い合わせください。