非常用発電機は、災害時の人命救助や復旧に不可欠な設備です。
したがって、危機管理の一環として定期的な点検を実施しなければなりません。
本記事では、非常用発電機の点検内容と平成30年の改正内容を解説します。
非常用発電機の負荷試験でよくある疑問点も、あわせてご覧ください。
目次
非常用発電機の負荷試験は災害時の確実な作動が目的
非常用発電機は、その名の通り、非常時の電力供給減として備えておく設備です。
一方で負荷試験とは、年に1度の総合点検に含まれており、非常用電源のメンテナンスや動作確認を行う試験です。
災害時に防災設備が作動しなければ、人命に関わる大きな事故にもつながるため、非常用発電機の定期点検や負荷試験は欠かせません。
しかし、非常時に備えておくためには、どの程度の期間ごとに点検を行うべきかが明確でなければ備えが不十分になる可能性があります。
そのため、消防法をはじめとした非常用発電機の定期点検の項目は、非常用発電機の役割を非常時に果たすために必要な点検時期の目安を明確化したのです。
なお、非常用発電機の点検の種類や費用の詳細を知りたい方は、「非常用発電機は点検が義務付けられている?点検内容や費用、確認事項を解説 」 をご覧ください。
非常用発電機に必要な2種類の点検とは?
非常用発電機で義務化されている点検は、機器点検と総合点検の2種類です。
機器点検と総合点検の違いは、実施する頻度とチェックする内容。
なお、本章で解説する点検項目は、昭和50年10月6日 消防庁告示第14号を参考にしています。
1.半年に1回「機器点検」
機器点検では、非常用発電機に負荷をかけずに稼働させて、正常に運転できているかを確認します。
具体的には設置状況・始動装置・制御装置・冷却水・排気筒など、合計18項目を点検します。
非常用発電機は、始動装置や制御装置が正常でなければ動かないのは明らかです。
さらに、冷却水は劣化すると冷却効率が低下し、排気筒はカーボン(不完全燃焼によって発生した炭素)がたまれば出力低下の原因になります。
機器点検は、非常用発電機の構成部品を正常に保つための点検です。
2.1年に1回「総合点検」
総合点検では、非常用発電機に定格回転速度・定格出力の30%以上の負荷をかけて異常の有無を確認します。
点検は、自家発電装置の接続部・保護装置・運低性能・切替性能などの7項目。
非常用発電機の運転中に、漏油・異臭・不規則音・異常振動・発熱などがなく、運転が正常であるかを判定します。
総合点検は、災害発生時を想定して実施する点検です。
非常用発電機の負荷試験方法は2種類
非常用発電機の負荷試験には、実負荷試験と模擬負荷試験の2種類が消防法によって定められています。
法律上は実負荷試験と模擬負荷試験のどちらでも構いませんが、それぞれのメリット・デメリットを踏まえて選ぶのが良いでしょう。
それでは、実負荷試験と模擬負荷試験の特徴を解説します。
方法1.設備を稼働させる「実負荷試験」
実負荷試験とは、消火栓やスプリンクラーといった消防機器や、非常時に稼働する設備を実際に稼働させ、災害時を想定して非常用発電機に負荷をかける試験方法です。
具体的には、定格出力の30%以上の負荷を15~30分程度かけた一定時間の連続運転を行います。
実負荷試験では、建物内の設備が稼働した状態で負荷をかけるため、非常用発電機で動かす設備が正常に稼働しているかを同時に確認できるのがメリット。
デメリットは、一時的とはいえ停電する点と、実際の設備では安定した負荷をかけ続けるのが困難なで、精度の高い検査が困難な点です。
したがって、病院など停電できない施設には実負荷試験は現実的ではないと言えます。
方法2.専用装置を使用「模擬負荷試験」
模擬負荷試験とは、一時的に発電機の系統を切り離し、専用の模擬負荷装置と非常用発電機をつなげた状態で負荷をかける試験方法です。
実負荷試験とは異なり、設備と非常用発電機をわけて作業するため、施設の電力を止める必要がありません。
病院・ホテル・大型商業施設といった多くの人が滞在している施設でも、模擬負荷試験であれば営業時間内での試験が可能になる上に、試験に要する時間も短縮可能。
模擬負荷試験は実負荷試験と異なり、専用機械で負荷をかけるため、一定の負荷をかけやすいのもメリットです。
非常時に使用する設備が非常用発電機で動くかどうかは別に確認する必要があるものの、模擬負荷試験は非常用発電機の動作を確実に確認できます。
非常用発電機の負荷試験の必要性とは?
前述した通り、非常用発電機には非常時の人命救助を目的とした定期的な点検が求められています。
本章では、より具体的に非常用発電機に負荷試験が必要な理由を解説します。
1.非常用発電機の負荷試験は義務
非常用発電機の負荷試験は、消防法によって義務付けられています。
災害により電力会社の電力供給がストップすると、消防活動に必要な設備の作動に必要な動力源が失うため、火災が発生しても迅速な消火が困難になるためです。
したがって、負荷試験を実施し、スプリンクラー・消火栓ポンプなどの防災設備が正常に作動するかを定期的に確認しなくてはなりません。
負荷試験を実施しなければ、消防法の点検基準で定めている項目の法令違反となるため、何らかのトラブルが生じた際には罰せられる場合もあるでしょう。
2.メンテナンス不良で非常用発電機が動かなかった事例も
総務省 消防庁が発表した「東日本大震災における自家発電設備のメンテナンス不良による不始動・停止台数」によると、メンテナンス不良に起因する不始動・停止した非常用発電機は23台でした。
非常用発電機が不始動・停止した原因の詳細は下記の通りです。
- 従前からの故障修理前:5台
- バッテリー放電等:2台
- 燃料フィルタ目詰まり:6台
- 流量計目詰まり:1台
- 逆流防止ダンパー故障:2台
- 排気弁の膠着(こうちゃく):1台
- 内部経年劣化:1台
- バッテリー放電:1台
- エアー混入:1台
- その他:3台
上記の通り、原因のほとんどは定期的なメンテナンスで解消できます。
したがって、不測の事態に対応するには、定期的なメンテナンスが重要です。
3.負荷試験・点検・報告を怠ると罰則がある
非常用発電機の点検や整備を怠る・虚偽を報告するなどの行為は、消防法第44条11号で、建築物の所有者や管理者に30万円以下の罰金もしくは拘留の処罰を定めています。
同時に、非常用発電機の管理業務を任されている担当者にも罰則がある点に要注意。
消防法第45条3号では、建築物の所有者や管理者だけでなく、非常用発電機の管理業務を任されている担当者にも最高1億円の罰金および刑事責任に問われる罰則があります。
定期点検に大きな罰則が用意されているのは、災害発生時は非常用発電機が人命救助や早期復興の要となるためです。
その点を踏まえ、非常用発電機は定期的に点検を行い、不慮の事態に備えましょう。
非常用発電機の負荷試験に関する4つの改正ポイント
平成30年6月1日に消防法設備の点検基準、および消防設備などの点検報告書に添付する点検表の様式が改正され、以前より負荷試験にかかる負担の軽減が可能になりました。
本章では、以下4つの改正ポイントを解説します。
- 点検周期を6年毎に延長
- 負荷試験に代わる点検方法として内部観察を追加
- ガスタービンを用いた自家発電設備の負荷試験は必要ない
- 換気性能点検を無負荷運転時に実施
なお、消防法における点検基準の決まりが改正された理由は、設置場所によっては負荷装置を設置した点検ができないケースや、停電しなければ点検できないケースがあったためです。
それでは、消防法によって改正された4つの点検基準を見てみましょう。
ポイント1.点検周期が6年ごとに延長
これまでは毎年の実施が求められていた負荷試験は、条件を満たすと6年に1度に延長されました。
6年に延長された理由は、実機での検証データから下記の2つを確認できたためです。
- 負荷運転で確認した不具合が発生する部品の推奨交換年数が6年以上であること
- 無負荷運転を6年間実施しても、運転性能に支障となる未燃焼燃料が蓄積されないこと
その一方で懸念されているのが、燃料供給・燃焼や冷却などが適切に行われなかった際に発生する多量の未燃焼燃料や燃焼残さ物の発生です。
そのため、負荷試験を6年周期にするには後述する「予防的な保全策」を実施しなければなりません。
ポイント2.負荷試験に代わる点検方法として内部監察を追加
内部監察とは、非常用発電機に負荷点検を実施できないときの代替点検方法です。
非常用発電機の部品を取り外し、各箇所を目視または内視鏡を用いて点検します。
総務省消防庁が令和元年6月28日に発表した「自家発電設備の点検要領の改正等について」には、下記5つの項目が掲載されています。
- 過給機コンプレッサ翼及びタービン翼並びに排気管等の内部監察:各翼に損傷・欠損がないか・燃焼残さ物等の付着がないかを確認
- 燃料噴射弁等の確認:燃料噴射弁の試験機を使用して燃料噴射圧力や噴射口の詰まりがないかなどを確認
- シリンダ摺動(しゅうどう)面の内部監察:シリンダヘッドを取り外し、または内視鏡を用いてシリンダ摺動面の内部を確認
- 潤滑油の成分分析:潤滑油の動粘度・燃料希釈分・塩基価・金属成分・水分などが適正値かを確認
- 冷却水の成分分析:冷却水のpH・全硬度・電気伝導率・蒸発残留物などが適正値かを確認
内部監察で問題が見つかった場合は、部品交換・洗浄などで対応します。
たとえば排気管にすすが溜まっていれば、洗浄して完全に除去します。
報告書の様式は、総務省消防庁予防課の「消防予第372号」をもとに作成してください。
ポイント3.ガスタービン式非常用発電機は負荷試験が不要に
改正前はすべての非常用発電機に負荷試験が必要でしたが、改正後はガスタービン式非常用発電機には負荷試験が不要となりました。
原動機にガスタービンを用いている非常用発電機は、負荷運転と無負荷運転を比較した際の熱的負荷に差がないことが判明したためです。
同時に、ガスタービン式非常用発電機は、排気系統に未燃焼燃料の蓄積が見られないことも判明。
ガスタービン式非常用発電機は、より効率的な燃料燃焼が可能な構造になっているためでしょう。
なお、ガスタービン式非常用発電機の特徴は「非常用発電機の仕組みとは?設置基準や点検、容量の決め方を解説」で解説していますので、あわせてご覧ください。
ポイント4.換気成功点検は無負荷運転時に実施
換気性能点検はこれまで負荷運転時に実施していましたが、改正後は無負荷運転時に実施することとなりました。
無負荷運転とは、車のエンジンを空ぶかししている状態のようなもので、非常用発電機に負荷をかけずに点検する方法です。
変更の理由として、消防庁が発表した「自家発電設備の点検要領の改正等について」には下記のように記載されています。
換気性能の確認は、負荷運転時における温度により確認するとされているが、負荷運転時の室内温度の上昇は軽微で、外気温に大きく依存するため、無負荷運転時に自然換気口の作動状況や機械換気装置の運転状況を確認することより行うことが適当とされた。
ただし、非常用発電機の定期的な負荷点検が不要になったわけではない点に要注意。
今回の法改正によって、負荷点検が不要となったのはガスタービン式非常用発電機のみです。
ガスタービン式以外の非常用発電機には、これまで通り定期的な負荷点検を実施しましょう。
負荷試験を6年周期にする条件「予防的な保全策」
負荷試験を6年周期にするには、予防的な保全策の実施が条件です。
予防的な保全策とは、非常用発電機の確認項目と定期交換部品を交換し、生じうるトラブルを予防すること。
予防的保全策の確認項目と交換が必要な部品は、以下の通りです。
- 点火線・予熱線・冷却水ヒーター・潤滑油プライミングポンプを設けている場合には、1年毎の確認が必要
- 潤滑油・冷却水・冷却水用ゴムホース・潤滑油フィルター・蓄電池などは各メーカーが指定する交換年月までに交換が必要
点火線・予熱線・冷却水ヒーター・潤滑油プライミングポンプの取り付けがない非常用発電機は例外となるものの、基本的には1年ごとに保全策を講じます。
予防的な保全策を講じた際に提出する書類は、点検業者に依頼する方法もありますが、自治体の消防設備会が様式を指定している場合もあります。
一例として、福岡市消防設備会は「消防用設備等点検報告書(自家発電設備)への添付書類について」で、指定した様式の使用協力を要請。
報告のための様式は、各自治体に確認すると安心です。
非常用発電機の負荷試験でよくある3つの疑問とは?
非常用発電機の負荷試験を業者に依頼する際に、よくある3つの疑問にお答えします。
業者を選ぶときのポイントともなるため、ぜひ参考になさってください。
疑問1.負荷試験の費用の目安は15万円~50万円
非常用発電機の種類や規模によって価格は異なりますが、点検費用は15~50万円が目安です。
上記の目安よりも安すぎる・高すぎる場合は、必ず業者の見積書を確認するまたは業者に直接確認するといいでしょう。
安すぎる場合は必要な点検が実施されない可能性があり、高すぎる場合は人件費や使用機器にムダが発生している場合があるためです。
複数の業者に見積書を作成してもらい、比較して適正な価格で提供してくれる業者を選ぶと安心です。
疑問2.非常用発電機の負荷試験の報告書は消防庁を参考に
非常用発電機の負荷試験の報告書は、依頼する業者によっては形式が異なる場合があります。
しかし、形式が異なっていても、必要事項がきちんと記載されていれば問題はありません。
不安な場合は消防庁のホームページにある「消防用設備等の点検基準、点検要領、点検表」のページから様式をダウンロードし、業者の報告書と比較するといいでしょう。
なお、業者によっては、報告書の形式を希望できる場合があります。
見積書の作成を依頼した際に、報告書の形式を確認するとともに、消防庁の様式で作成できるかを確認すると確実です。
疑問3.負荷試験は有資格者に依頼すべき
非常用発電機の負荷試験は消防法で定めらた点検のひとつであり、消防法施行令第36条第2項では、特定の施設で実施する点検には有資格者が必要なことが記載されています。
有資格者が必要な施設の詳細は以下の通り。
- 延べ面積1,000㎡以上の特定防火対象物
- 延べ面積1,000㎡以上の非特定防火対象物の中で、消防長または消防署長が指定した施設
- 避難経路(屋内階段)が1つの特定防火対象物
上記の建築物で負荷試験を実施する場合は、消防設備士または消防設備点検資格者が必要です。
なお、特定施設でない場合も、より確実な点検を行うために有資格者が実施することが推奨されています。
非常用発電機の負荷試験でお悩みの方へ
本記事では、非常用発電機の負荷試験の方法や必要性を解説しました。
災害発生時に、安心して非常用発電機を使用するためには、定期的な負荷試験が必須です。
なお、当メディアを運営する株式会社ギアミクスでは、非常用発電機を対象とした疑似負荷試験の経験が豊富です。
詳しくは、事例ページに掲載しておりますので、ぜひご覧ください。