高圧電力を引き込み自社で変圧できるキュービクルは、長期的なコスト削減が可能な電気設備です。
しかし、キュービクルの高圧ケーブルや保護装置などに故障が生じると、自社のみならず周辺の事業所まで停電が広がる『波及事故』が起こる恐れもあります。
ひとたび波及事故が起こると、莫大な損害賠償につながりかねません。
本記事ではキュービクルの波及事故の原因や事例、予防方法などを解説します。
キュービクルの導入や管理方法について知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
※キュービクルについて詳しく知りたい方は、下記の記事をご覧ください。
キュービクルとは?設置のメリットや注意点などを解説
目次
波及事故とは
波及事故とは、高圧電力を引き込んでいる事業所の電気設備が故障するなどして電力会社の配電線が停止し、停止した配電線に接続されているほかの需要家も停電する事故を指します。
需要家内で事故が発生した場合、需要家内に接地されている高圧遮断器やヒューズなど、各種保護装置によって事故点が遮断されるため、電力会社には影響しません。
しかし、保護装置の整備不良や保護装置よりも上位の箇所での事故が発生すると、需要家内で事故が遮断できず、電力会社配電線の保護装置が動作して周辺の停電を伴う波及事故につながります。
自社の損失のみならず、周辺の工場の操業停止やデパートの営業停止、信号の消灯など社会的に大きな影響を及ぼすため、多大な損害賠償を請求される可能性もあります。
波及事故の原因
一度起こると広範囲に被害が広がる波及事故は、どのような原因で引き起こされるのでしょうか?
波及事故の原因は主に以下の4つに分けられます。
- 保守不備等
- 自然災害(雷・台風)
- 故意・過失(工事・火災)
- 鳥獣接触等
それぞれの原因を詳しく解説します。
①保守不備等
独立行政法人 製品評価技術基盤機構(NITE)は、令和2年度の需要設備における波及事故の割合を下記のように発表しました。
波及事故の原因の多くは、電気機器のメンテナンス不足といった保守不備によるものです。
受変電設備は、遮断器、断路器といった開閉装置のほか、変圧器や保護継電器など各種電気機器が組み合わされてできています。
各部品には耐用年数や寿命が存在するため、それぞれに応じて交換しなければ、故障やトラブル、ひいては波及事故につながります。
電気機器の交換目安は以下の通りです。
機種 | 更新推奨時期(使用開始後) |
高圧交流負荷開閉器 | 屋内用:15年または負荷電流開閉回数200回
屋外用:10年または負荷電流開閉回数200回 GR付き開閉器の制御装置は使用開始後10年 |
遮断機 | 手動操作20年または操作回数1000回
動力操作20年または操作回数10000回 |
避雷器 | 15年 |
交流遮断器 | 20年または規定開閉回数 |
計器用変成器 | 15年 |
保護継電器 | 15年 |
高圧限流ヒューズ | 屋内用:15年
屋外用:10年 |
高圧交流電磁接触器 | 15年または規定開閉回数 |
高圧進相コンデンサ
直列リアクトル、放電コイル |
15年
15年 |
高圧配電用変圧器 | 20年 |
定期的な交換やメンテナンスを欠かさずに実施しましょう。
②自然災害(雷・台風)
波及事故の原因として2番目に多いのは、雷や台風などといった自然災害によるものです。
自然災害によるトラブルは下記のようなケースがあります。
- 区分開閉器が雷により焼損し、ショートする
- 地震により高圧ケーブルが損傷する
- 台風による飛来物が柱上の機器を損傷する
- 雨水が侵入してショートする
自然災害時にはなるべく早く機器に異常がないか点検をして、波及事故を防ぎましょう。
受電点に避雷器を取り付ければ、雷による波及事故を防ぐことができます。
また避雷器の効果を維持するためには、年次点検時に接地抵抗地を測定し、機能を確認していくことが大切です。
③故意・過失(工事・火災)
波及事故の原因の中には、建設や土木の作業者、点検業者などによる故意・過失もあります。
例えば掘削作業や改築工事中に電力ケーブルを切断・損傷してしまい、周辺建物に影響が及ぶなどといった事例です。
そのほかにも下記の事例があります。
- 構内電気設備の異常を検知して自動的に開放された区分開閉器を、電気主任技術者等に連絡せずに自己判断で投入して、波及事故につながる
- 停電を伴う点検終了後に受電設備に取り付けた作業用安全装置の取り外しを忘れたまま、区分開閉器を投入し、波及事故に至る
故意や過失による波及事故は、周辺設備のみならず、作業員自身も巻き込んだ人身事故にもつながりかねません。
作業や点検は必ず電気主任技術者に任せるほか、事前計画を遵守するといった対策が重要です。
④鳥獣接触等
波及事故は、高圧引込用区分開閉器や高圧受電設備内へ鳥獣が侵入・接触することによっても引き起こされます。
例えば高圧引込用区分開閉器上にカラスが巣を作ったり、キュービクル内に小動物が侵入して高圧重電部に触れたりすると、電気回路に異常が生じて波及事故につながります。
電気設備にはなるべく小動物が触れたり侵入したりできないような措置が求められます。
キュービクルで起こる波及事故例
キュービクルでは実際にどのような波及事故が起きているのでしょうか?
- 保守不備による波及事故で5時間停電
- ネズミの侵入による波及事故で2.5時間停電
実際に起きた以上2つの事例について紹介します。
保守不備による波及事故で5時間停電
とある旅館が起点となり起きた波及事故は、保守不備によるものでした。
事故当日の天気は晴れ。
14時半過ぎに当該旅館や周辺地域に停電が発生し、連絡を受けた技術者と電力会社社員よって原因の調査が行われました。
調査の結果、当該旅館の高圧引込ケーブルに雨水が染み込み、絶縁破壊して地絡していたことが判明。
地絡継電器(GR)が動作しなかったため、高圧気中開閉器(PAS)は開放せず、波及事故に至ったことが分かりました。
ケーブルは設置後約19年が経過。
年次点検では問題は見られなかったものの、その後ケーブル端末処理材にずれが生じ、月次点検で異常を発見できなかった例です。
月次点検の重要性を示した事故といえるでしょう。
- 当該事業場の停電時間:5時間3分
- 供給支障時間:1時間10分
- 供給支障戸数:73戸
(参考:九州管内で発生した最近の災害事例集|電気安全九州委員会)
ネズミの侵入による波及事故で2.5時間停電
キュービクルに侵入したネズミが電気設備に接触して、約2.5時間電気供給に支障が生じた事例もあります。
調査時には、高圧気中開閉器(PAS)は開放状態で、地絡継電器(GR)には動作表示がありました。
PASの焼損痕と外箱変形からPASの絶縁抵抗を測定した結果、相間・対地間が絶縁破壊していることが判明。
キュービクル内の低圧ケーブル入り口開口部から侵入したネズミが、計器用変流器(CT)の充電部に接触し、地絡・短絡したことにより、波及事故につながったものと考えられています。
事故後はネズミの侵入経路となったと考えられるキュービクル内の低圧ケーブル入口開口部、制御盤内の制御線入口開口部をコーキングで塞ぎました。
小動物の侵入経路の遮断の重要性を示した事故です。
- 供給支障時間:155分
- 供給支障軒数:不明
(参考:事故事例集(平成27~29年度に発生した死傷事故、波及事故)|独立行政法人製品評価技術基盤機構)
キュービクルの波及事故予防には保安点検が欠かせない!
キュービクルの波及事故は、保安点検によって大部分を防ぐことが可能です。
以下で解説するキュービクルの保安点検を適切に実施して、波及事故を防ぎましょう。
キュービクル保守点検の内容
キュービクルには以下の保安点検の実施が義務付けられています。
- 毎月もしくは隔月での月次点検
- 毎年もしくは3年に1回の年次点検
絶縁監視装置が設置されているキュービクルは高い安全性が認められるため、毎月ではなく隔月での月次点検が可能となります。
信頼性が高く、規定と同等の点検が年に1回以上行われるキュービクルは、年次点検を3年に1回に延期することも可能です。
月次点検で確認する項目は、主に回路の漏電の有無、機器の異常な温度上昇の有無、異音や異臭の有無などです。
年次点検では、高圧電力が流れる箇所の絶縁の有無、高圧ブレーカーの動作などを確認していきます。
高圧電力が流れる箇所の点検なので、安全のために敷地内全ての停電が必要です。
※詳しい点検項目については、下記の記事で解説しています。
キュービクルは保安点検が義務!点検内容や法律、費用などを解説
キュービクル保守点検を実施するには
キュービクルは、電気主任技術者が保安点検をするよう『電気事業法』によって定められています。
社内に電気主任技術の資格を持つ技術者を雇用するか、電気主任技術者を雇用できない場合は『外部委託承認制度』によって外部委託も可能です。
『外部委託承認制度』とは、電気主任技術者を雇用できない場合に、外部の電気主任技術者に委託できる制度です。
電気事業法施行規則第52条第2項に基づき、第一種・第二種・第三種電気主任技術者の所有者による検査が可能となっています。
(参考:平成七年通商産業省令第七十七号 電気事業法施行規則)
キュービクル保守点検の費用
キュービクルの保安点検費用は業者にもよりますが、費用の目安は以下の通りです。
- コンビニなどの小規模な施設で月1万円前後
- 大きな工場やショッピングセンターで月5~6万円前後
各部品の寿命目安は以下の表を参考にしてください。
少なくとも修理や交換は、寿命から考えると設置から10年ほど経過しないと発生しづらいといえるでしょう。
部品 | 寿命目安 |
気中開閉器 | 10~15年 |
電力ヒューズ | 15年 |
変圧器 | 20年 |
保護リレー | 15年 |
各部品の交換や修理にかかる費用は規模や内容によって異なりますが、大体数十万円~数百万円かかることが多いです。
修理内容 | 費用例 |
高圧ケーブルとLBSの更新工事 | 130万円 |
UGS開閉器の新設工事 | 69.5万円 |
トランス・PAS VTLA・高圧ケーブル交換工事 | 300万円 |
※キュービクルのメンテナンスにかかる費用については、下記の記事も併せてご覧ください。
キュービクルの値段はどのくらい?費用対効果や中古の相場も解説
キュービクルの波及事故は定期的な保守点検で予防しましょう
キュービクルは長期的にコスト削減につながる電気設備ですが、波及事故が起きると莫大な損害賠償が発生する恐れがあります。
波及事故の主な原因は、下記の4つです。
- 保守不備等
- 自然災害(雷・台風)
- 故意・過失(工事・火災)
- 鳥獣接触等
中でも保守不備による波及事故は、日ごろの定期的点検によって予防できます。
- 毎月もしくは隔月での月次点検
- 毎年もしくは3年に1回の年次点検
上記2つの点検を的確に実施して、キュービクルの波及事故を防ぎましょう。
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※キュービクルの点検・工事を依頼できる会社を選ぶポイントを知りたいなら、下記の記事を参考にしてください。
キュービクル・メンテナンス会社はどこがいい?選ぶポイントを解説