非常用発電機などの自家発電機には、消防法によっていくつかの点検の実施が義務付けられています。
点検項目の1つに負荷運転があり、模擬負荷試験は負荷運転の方法の1つです。
負荷運転には模擬負荷試験のほか実負荷試験もあり、それぞれ特徴が異なります。
本記事では、模擬負荷試験と実負荷試験との違いや、試験の必要性について解説します。
目次
模擬負荷試験とは?
模擬負荷試験とは、非常用発電機などの自家発電機が正常に稼働するかどうかを調べる試験方法の1つを指します。
非常用発電機などの自家発電機は、消防法で以下の点検が義務付けられています。
- 半年に1回の機器点検
- 1年に1回の総合点検
- 1年に1回の負荷運転または内部観察
もしくは
- 半年に1回の機器点検
- 1年に1回の総合点検
- 予防的な保全策
- 6年に1回の負荷運転または内部監察等
模擬負荷試験は、上記の『負荷運転』のうちの1つの方法です。
負荷運転には模擬負荷試験のほか、実負荷試験があり、それぞれ方法や特徴が異なります。
非常用発電機等の点検の際は、それぞれの特徴を知った上で、より自社に合った方法を選ぶことが大切です。
自家発電機の点検については、以下の記事でも詳しく解説しています。
模擬負荷試験と実負荷試験との違い
非常用発電機などの自家発電機には、模擬負荷試験もしくは実負荷試験での点検が義務付けられています。
両者のメリット・デメリットを以下の表にまとめました。
試験方法 | メリット | デメリット |
実負荷試験 | 館内設備もまとめて試験できる |
|
模擬負荷試験 |
|
館内設備の試験はできない |
総合的にみると、模擬負荷試験の方がメリットが大きい方法であるといえます。
各メリット・デメリットについて、以下で詳しく解説していきます。
実負荷試験のメリット
実負荷試験とは、非常用発電機などの自家発電機から、館内の設備に実際に負荷をかける試験方法です。
実際に館内の設備に負荷をかけるため、発電機の作動だけではなく、館内設備が正常に作動するかも同時に点検できます。
実負荷試験のデメリット
実負荷試験のデメリットは、以下の3点です。
- 施設を停電させる必要がある
- 負荷率が安定しない
- 大人数が必要になる
①施設を停電させる必要がある
実負荷試験は館内の設備に負荷をかけることで発電機の稼働状況を確認する方法です。
確認のためには一度施設をすべて停電させる必要があり、業務に支障をきたす可能性があります。
医療機関など事業の性質上停電ができない場合や、停電によって売り上げが大きく落ち込む場合などは、実負荷試験での対応は難しいといえます。
②負荷率が安定しない
実負荷試験のデメリットの2つ目として、負荷率が安定しない点が挙げられます。
負荷率とはモーターの定格出力に対してどれだけの負荷をかけているかを指し、負荷試験では30%以上の負荷で一定時間連続運転することが1つの条件です。
これに対して実負荷試験は、館内設備を動かしながら負荷をかけることになるため、負荷率を30%以上に維持させたまま発電機を動かすことが難しくなります。
③大人数が必要になる
実負荷試験は発電機から実際に館内の設備に負荷をかけて、稼働状況を確認する試験です。
各設備がきちんと動いているかどうかを見る必要があるため、館内には何人もの人員を配置する必要があります。
業者側はその分の人員を手配しなければならない上に、人件費も上乗せされるため、依頼者側が払う試験費用も高額になりやすいといえます。
模擬負荷試験のメリット
それでは、模擬負荷試験にはどんなメリットがあるのでしょうか?
模擬負荷試験のメリットは、以下の4点です。
- 停電が不要
- 一定の負荷をかけ続けられる
- 少ない人員で試験できる
- エンジン内部の未燃焼燃料を確実に排出できる
①停電が不要
模擬負荷試験とは、非常用発電機などの自家発電機から、模擬負荷試験装置に電気を出力して発電機の稼働状況を調べる方法です。
電気の出力先が館内設備ではないので、館内を停電させずに発電機の試験が可能となります。
例えば医療施設や宿泊施設などは年中利用者がおり、館内をすべて停電させることは非常に困難です。
そのような事業者でも、施設の営業に影響を与えずに負荷試験を終えられる点は模擬負荷試験の大きなメリットであるといえます。
②一定の負荷をかけ続けられる
模擬負荷試験で発電機が電気を出力する先は、模擬負荷試験装置1つだけです。
実負荷試験のように館内にいくつもある設備に電気を出力するわけではないので、一定負荷率で電気を出力できるというメリットがあります。
例えば負荷試験に定められている負荷率は30%以上ですが、模擬負荷試験では負荷率100%で一定時間試験することも可能です。
高い負荷率で試験できることでより災害時の状況に近い試験が可能となり、安全性を高められます。
③少ない人員で試験できる
模擬負荷試験の大きな特徴は、試験時に必要なのは大きく分けて発電機と模擬負荷試験装置の2つだけであるという点です。
発電機と模擬負荷試験装置をつなぐだけで試験ができるので、人員は最低2人から試験ができます。
実負荷試験では館内の各設備に人員を配置する必要があったのに対し、模擬負荷試験は最低2名で足りるため、人件費や試験時間などの負担を大きく削減できます。
④エンジン内部の未燃焼燃料を確実に排出できる
発電機の負荷試験の意外な役割の1つに、エンジン内をきれいにできるという点があります。
特に非常用発電機は災害などで停電が起こらない限り、使われることはありません。
数年間一度も使っていないということもざらに起こる中、エンジン内には未燃焼燃料などのゴミが溜まりやすくなります。
そこでエンジン内の未燃焼燃料を排出できる機会が、模擬負荷試験なのです。
模擬負荷意見では30%以上の高い負荷率で一定時間負荷をかけられるため、エンジン内部のカーボンや未燃焼燃料を裳やし、除去することが可能となります。
負荷率を高く維持することが難しい実負荷試験ではエンジン内部をきれいにするところまで至らない場合が多く、模擬負荷試験ならではのメリットといえます。
模擬負荷試験のデメリット
模擬負荷試験のデメリットは、発電機の負荷試験と同時に館内設備の点検ができない点です。
発電機から電気を出力する先は模擬負荷試験装置なので、発電機からの電気で館内設備が動くかどうかは確認できません。
デメリットはあまりない模擬負荷試験ですが、設備を点検したい際は負荷試験とは別で点検する必要がある点は少々面倒に感じられるかもしれません。
内部観察をしないなら模擬負荷試験は必須!
自家発電機の点検では、『負荷運転または内部観察』の実施が義務付けられています。
内部観察とは、1つ1つの部品を点検したり交換したりする点検方法です。
館内の停電は必要ありませんが、1つ1つの部品の点検にはそれなりの手間と時間がかかるため、模擬負荷試験よりも費用が高額になる傾向があります。
部品をきちんと点検したい場合には内部観察が適していますが、内部観察をしないのであれば、メリットの多い模擬負荷試験が必須だといえるでしょう。
実際に災害が起きて非常用発電機がいざ稼働しないと、施設内のエレベーターやスプリンクラーが動かなかったり、消防活動ができなくなったりして非常に危険です。
模擬負荷試験では災害時と同様に十分な負荷をかけて点検ができるので、必ず模擬負荷試験を実施して発電機の点検をするようにしましょう。
模擬負荷試験の流れ
それでは、実際に模擬負荷試験を実施する場合はどのような流れで進んでいくのでしょうか?
模擬負荷試験は、以下のような流れで進んでいきます。
- 模擬負荷試験を行う業者に依頼する
- 現場を確認して試験日などを設定する
- 模擬負荷試験を実施する
- 業者から報告書をもらう
それぞれ詳しく解説していきます。
①模擬負荷試験を行う業者に依頼する
発電機の点検業者は数多く存在し、実負荷試験のみ対応している業者や内部観察のみ対応している業者などもいます。
まずは検査をしたい施設がある地域周辺で、模擬負荷試験に対応している業者を探してみましょう。
最近では自社のホームページを持つ点検業者も増えていますので、Googleなどで「〇〇(地域) 模擬負荷試験」などと検索すれば、対象地域の模擬負荷試験業者が出てくる可能性が高いです。
上記の方法で出てこない場合は、役所に問い合わせると業者の見つけ方をアドバイスしてくれるでしょう。
業者を見つけたら、実際に問い合わせて検査について相談してみてください。
②現場を確認して試験日などを設定する
業者に問い合わせをしたら、担当者が現場に赴いて発電機や試験場所などを確認してくれます。
発電機の場所や模擬負荷試験装置を置く場所などに問題がなければ、実際の試験日や費用について確定をして契約となります。
③模擬負荷試験を実施する
試験日が来たら、業者の作業員がやってきて実際に検査を実施します。
当日は停電の必要はありません。
担当者立ち合いのもと、数時間で試験が完了します。
感電の恐れがありますので、試験中は絶対に発電機などを触らないようにしましょう。
④業者から報告書をもらう
模擬負荷試験完了後は、試験の結果を消防庁に提出する必要があります。
検査結果は業者がまとめてくれるので、報告書ができるのを待ちましょう。
模擬負荷試験を実施して非常用発電機を安全に稼働させましょう!
模擬負荷試験とは、非常用発電機などの自家発電機に定められた検査である負荷試験の方法の1つです。
負荷試験の方法には、模擬負荷試験のほかに実負荷試験があります。
模擬負荷試験は停電なしで高負荷率の試験ができる一方、実負荷試験は停電が必要な上に人件費なども高くなりやすく、模擬負荷試験の方がメリットが大きいといえます。
施設内の設備点検が特別に必要という場合以外は、模擬負荷試験を実施して、非常用発電機を安全に稼働させましょう。