エレベーターは病院にとって欠かせない存在です。
なぜなら、車いすやストレッチャーなどを使う人にとって、エレベーターがなければ移動がままならないためです。
本記事では、病院に設置するエレベーターの特徴や関連法規を解説します。
病院エレベーターだからこその特殊機能も、あわせてご覧ください。
目次
病院エレベーターの2つの特徴とは?
関連法規とは別に、病院のエレベーターは適した医療を迅速に提供するために、押さえておくべき条件があります。
本章では、病院のエレベーターに備えるべき特徴を解説します。
特徴1.ユーザビリティにすぐれる
病院のエレベーターは、扉が開いている時間の延長機能や専用運転機能、緊急呼び出し機能などを簡単に使えるように、操作性にすぐれるのが特徴のひとつ。
特に、専用運転機能や緊急呼び出し機能は、一刻を争うような場面での活躍が見込める重要度の高い機能です。
また、扉が開いている時間の延長機能は、乗り込みに時間のかかる人や慎重な取り扱いが必要な医療機器を移動するときに必要です。
病院のエレベーターは、乗り場の操作性も考慮されているものが多くあります。
状況によっては、乗り場からの操作が必要となる場合があるためです。
病院のエレベーターは、さまざまな場面を想定して、ユーザビリティの高さを考えることが大切です。
特徴2.安全性が考慮されている
病院のエレベーターは、安心して治療に専念してもらうために、安全性の高さを考慮しているのが特徴です。
安全性を高めるための工夫としては、おもに下記のようなものが挙げられます。
- バリアフリー
- 抗菌済み手すりの設置
- エレベーターのかごと建物のすき間を限りなく狭める
たとえば、エレベーターのかごと建物のすき間が大きい場合は、車いすの前輪や歩行補助具のタイヤが挟まってしまうリスクが想定されます。
タイヤが挟まれば、思わぬ事故に発展する可能性もあるため、安全性の確保には欠かせないでしょう。
普段は何気なく使っている病院のエレベーターも、安全を保持するために、さまざまな工夫をしていることがわかります。
病院エレベーターに適したサイズとは?
一口に病院と言っても、個人院から総合病院までと規模はさまざまです。
病院の規模が異なることで、エレベーターの使用対象やサイズが大きく変わります。
本章では、病院の規模や使用対象に応じて、それぞれに適したエレベーターのサイズを解説します。
1.使用頻度が少ない病院「小規模建物用小型エレベーター」
小規模建物用小型エレベーター(小型エレベーター)とは、利用者がある程度限定されている小規模な建物への設置を目的としたエレベーターです。
小規模建物用小型エレベーターの特徴は以下の通りです。
- 定員3名以下・積載量200kg以下・かご床面積1.3㎡以下と利用対象は限定的
- 低コストで導入しやすい
- ランニングコストを抑えやすい
小規模建物用小型エレベーターは、小規模な高齢者施設向けに開発されていますが、病院への設置も可能。
エレベーターの使用頻度が低く、乗車人数が少ない場合は適していると言えるでしょう。
なお、小規模建物用エレベーターの情報は、一般社団法人日本エレベーター協会「小規模建物用小型エレベーター向け 使用回数表示機能の開発」を参考にしています。
2.車いす・歩行者がメイン「スタンダードサイズエレベーター」
おもな使用者が、車いすと付き添い2~3名程度であればスタンダードサイズのエレベーターが適しています。
スタンダードタイプエレベーターは、6~9名ほどの乗車を想定しており、小規模建物用小型エレベーターと比較して積載量も大きいのが特徴。
スタンダードサイズのエレベーターは、マンションやアパートなどの居住区に設置されているものをイメージすると分かりやすいでしょう。
点滴台を使用する人や在宅酸素療法中の人など、軽度の医療機器を使用する人にも適しています。
3.ストレッチャー使用・総合病院向け「寝台用エレベーター」
総合病院、またはそれに近い規模の病院の場合は、選択肢は寝台用エレベーターのみと言っても過言ではありません。
なぜなら、総合病院クラスになると、ストレッチャーやベッドなどを乗せる機会が多く想定できるためです。
さらに、医療用モニターをはじめとした多くの医療機器の同乗が必要になる場面も。
総合病院のエレベーターは、ベッド・医師・看護師・医療機器などが同時に乗れるよう、十分なサイズ感を持たせましょう。
病院エレベーターの特殊機能「専用運転」の使い方
病院のエレベーターは、緊急対応を目的として専用運転の機能が搭載されています。
専用運転とは、登録された階に直接移動する機能です。
本章では、専用運転の使い方を解説します。
なお、本章で解説する内容は、三菱電機株式会社「NEXCUBE 取扱説明書 運行管理編」を参考にしています。
メーカーや機種によって、操作方法が異なる場合があるため、専用運転の使い方がわからない場合はメーカーやメンテナンス業者などに確認してください。
1.専用運転への切替
専用運転への切り替え手順は以下の通りです。
- 扉の「開」ボタンと「戸開延長」ボタンを同時に押す
- 希望する階を、ドアが閉じきるまで押し続ける
専用運転に切り替わると、かご操作盤と乗り場の専用灯が点灯するため、目視で確認できます。
希望する階の選択は、ドアが閉じきる前に行先ボタンから手を離すと行先登録が取り消されるため、その際は行先ボタンを再度押し続けてください。
2.専用運転の解除
専用運転を解除する方法は、下記の2つです。
- 目的の階に到着する(到着した時点で自動で解除される)
- 専用運転に切り替え後、3分間行先ボタンを押さない
専用運転は、基本的に自動的に解除されるため、特殊な操作は不要です。
病院エレベーターと関連法規
病院に設置されるエレベーターの的確な運営には、関連法規の把握と理解が求められます。
本章では、病院のエレベーターの関連法規を解説します。
1.病院にエレベーターの設置義務はない
厚生労働省の資料には、以下のような記載があります。
病院又は診療所については、医療法施工規則の構造設備基準でエレベーターの設置義務はない
しかし、2階以上に病室を設置している病院にとっては、エレベーターを設置しないというのは現実的ではありません。
病気やケガで車いすを必要とする人が多くいるでしょうし、高齢化が進む現代社会においては、階段での移動が難しい人が増えているためです。
そのため、2階以上に病室を設置している病院は、ユーザビリティを考慮するとエレベーターを設置する必要性が高いと言えます。
2.病院エレベーターは年に1回の点検が義務
病院のエレベーターの点検に関わるのは、建築基準法と労働安全衛生法の2つです。
それぞれの詳細は以下の通りです。
- 建築基準法第8条:建物の所有者が建築物を常に適法な状態に維持する責任を定めている
- 建築基準法第12条第3項:建物の所有者はエレベーターなどの昇降機を定期的に点検し、点検結果を特定行政庁に報告する義務を定めている
- 労働安全衛生法施行令第12条:積載荷重が1トン以上のエレベーターを「特定機械等」として分類し、設置や仕様に際した安全基準の遵守を義務付けている
- 労働安全衛生法第37条:事業者はエレベーターの適切な運用を確保するため、機械等に関する検査規定の遵守を定めている
特定行政庁とは、市町村または県などの地方公共団体と、その長を指します。
いずれの法律でも、毎月の点検と年1回の点検を義務化しています。
エレベーターの定期点検の報告を怠った場合は罰則が科せられる可能性がある点に要注意。
必要な報告をせずに放置すると、特定行政庁から使用停止命令が下される場合ばあります。
ただし、エレベーターの定期点検は、安全な運行を目的としているものです。
点検には一定のコストがかかりますが、事故を未然に防ぐことで、社会的な信頼構築につながります。
エレベーターの安全を確保するためにも、点検は定期的に実施しましょう。
なお、エレベーターの点検の詳細は「エレベーター保守点検・管理とは?義務化された法律と頻度・種類を解説」もご覧ください。
3.病院エレベーターのリニューアルは20~25年が目安
病院エレベーターのリニューアル(交換)を検討するタイミングは以下の通りです。
- 耐用年数を迎えた:メーカーは20~25年、国土交通省 長期修繕計画ガイドラインでは30年とされている。
- エレベーターのトラブル増加:異音・異臭・異振動などのほか、運行速度低下や扉が開かないなど。
- メーカーがパーツの供給を停止した:メーカーによって差があるものの、販売開始後20年経過で供給停止など、タイミングを定めている。
エレベーターのトラブルの中には、気付くのが難しいものもあります。
そのため、エレベーター管理者のほか、病院の看護師をはじめとしたスタッフからの声も参考にすると良いでしょう。
エレベーターのリニューアル費用や工期などは「マンションのエレベーター交換費用の相場とは?経費削減のポイントも」をご覧ください。
4.災害対策に病院エレベーターが必須
近年では、自然災害の増大にともない、病院のBCPの重要性が高まっています。
病院のBCP対策として、非常用発電機の設置が注目を集める一方で、エレベーターの稼働を含んだ計画策定も必要とする声も。
実際に、東北大学が発表した「東日本大震災宮城県災害拠点病院調査」では、病院が担う業務の多くにエレベーターが多くの影響を及ぼすとしています。
多数の階層が存在する病院において、スピーディなスタッフや患者の移動にはエレベーターが必須。
災害時に多くの命を救うためにも、エレベーターは大切な存在です。
なお、病院に設置する非常用発電機でお困りの際は「病院に必要な非常用発電機とは?種類・設置義務・補助金の詳細も解説」をご覧ください。
病院のエレベーターは定期的なメンテナンスで安全性を保てる
本記事では、病院のエレベーターの特徴や適したサイズ、関連法規などを解説しました。
エレベーターは、医療現場に不可欠な存在であり、その安全性の確保は重要です。
当メディアを運営する株式会社ギアミクスは、エレベーターの点検・メンテナンスを請け負っております。
エレベーターの定期的な点検やメンテナンスの依頼先でお困りの際は、ぜひお気軽にお問い合わせください。