日本では、海外に比べて発電設備や送電設備がしっかりと整備させているため、停電による影響が少ないと考える方も多いのでないでしょうか?
しかし、自然災害による大規模な停電によって施設内の機器が停止し、多くの人に影響を与える可能性もゼロではありません。
非常用発電機は緊急時に機器へ電力を供給し、素早い復旧をおこなう役割を担っています。
非常用発電機の耐用年数は保管場所やメンテナンスの有無などによって、異なりますが30年は使用し続けることが可能です。
本記事では、非常用発電機の役割や耐用年数、メンテナンスについて解説します。
目次
非常用発電機と常用発電機の違い
常用発電機とは、電力会社の電力供給に関わらず、常に稼働している発電機です。
常用発電機は長時間の稼働を想定した構造となっており、工場や施設などで電力を使用する際のピークカットや電気エネルギーを得るシステムとして運転しています。
なお、稼働に必要な重油などの価格が高騰しているため、常用発電機を使用している工場や施設は減少傾向といえるでしょう。
一方で非常用発電機とは、電力会社の電力供給が途絶えた際に施設内の機器へ電力を送る発電機です。
電力会社の電力供給が再びはじまると、非常用発電機は止まり、再び停電時に備えます。
常用発電機は常に稼働しているため、頻繁に点検をおこなう場合がほとんどです。
一方で非常用発電機は緊急時しか稼働しないため、法定点検や予防保全を怠りやすい傾向にあります。
非常用発電機の耐用年数
非常用発電機の耐用年数には、法定耐用年数と国土交通省官庁営繕所基準の耐用年数の2種類あります。
各耐用年数の基準を見ていきましょう。
法定耐用年数
法定耐用年数とは、帳簿上で減価償却が認められている期間で、非常用発電機の法定耐用年数は15年です。
機会や建物は購入日から年月が経つほど劣化し、価値が下がりますが、そのような資産価値を減価償却資産といいます。
減価償却資産の費用は、購入した際に支払った金額を計上するのではなく、毎年の経費として計上することが可能です。
法定耐用年数は、機械や機材、建材の種類によって法律で定まっています。
ただし、実際に稼働できる年数は使用方法やメンテナンス方法によって変動するため、法定耐用年数どおりになるとは限りません。
国土交通省官庁営繕所基準の耐用年数
実際に使用できる年数の基準は、国土交通省官庁営繕所基準での耐用年数です。
国土交通省が管理する建物や機材をもとに、修繕を繰り返しながら使用し続けられる年数を定めています。
非常用発電機の法定耐用年数は15年ですが、国土交通省官庁営繕所基準での耐用年数は30年です。
あくまで国の備品や施設をもとにした使用できる基準です。
しかし、非常用発電機のメンテナンスや修繕をしっかりと行えば、30年は使用できることを意味しています。
非常用発電機が故障する原因
非常用発電機で故障しやすい部品を把握すれば、メンテナンス時に役立ちます。
異常を発見し修繕を行えば、より長く使用することが可能です。
非常用発電機が故障する主な原因は、下記の3つが挙げられます。
バッテリーの劣化
バッテリーは製品や使用頻度、保管場所によって異なります。
目安としては蓄電池が7年、触媒栓は5年で交換が必要になります。
バッテリーは経年や気候によって上部蓋が膨張し、液漏れを起こす場合も少なくありません。
非常用発電機のバッテリーをメンテナンスする際には、電解液の量や触媒栓の有効期限、電極版に剥がれ・曲がりがないか、電圧や容器の傷などを確認しましょう。
バッテリーは消耗品のため、何か異常がある場合には速やかに交換してください。
エンジンオイルの劣化
非常用発電機の稼働に欠かせないエンジンは、金属部品で構成してあります。
金属部品を滑らかに動かすには、エンジンオイルが非常に重要です。
エンジンオイルは経年劣化すると量が減るため、エンジンの動きを鈍らせたり、冷却効果がなくなり焼付けを起こしたりする原因になります。
2年ほど使用したら、メーカーが指定する新しいエンジンオイルに交換しましょう。
冷却水の劣化
非常用発電機のエンジンを冷却する役割があるラジエーターには、冷却水が入っています。
冷却水の交換を怠ると、腐食や錆によって冷却効果が下がり、エンジンがオーバーヒートする可能性があるでしょう。
気温が低い場合は冷却水が凍結する可能性もあるため、注意が必要です。
冷却水の交換目安は1年ほどで、メーカーが指定するロングライフクーラントに交換しましょう。
非常用発電機をメンテナンスする必要性
前述したとおり、非常用発電機の耐用年数は約30年ほどといわれています。
しかし、実際には10年ほどで故障し、使用できなくなる非常用発電機も少なくありません。
国の基準では、30年は稼働し続けられる非常用発電機ですが、メンテナンスを怠ると劣化を早めてしまいます。
非常用発電機の耐用年数を延ばすために、覚えておきたいポイントを把握しましょう。
メンテナンスによって耐用年数が延びる
メーカーや製造時期が同じ製品でも、使用方法や保管場所、メンテナンスの頻度によって耐用年数が異なります。
10年ほどで故障し使用できなくなる場合もあれば、国が基準としている30年も使用し続けられる場合もあるでしょう。
非常用発電機のような機械や機材は、当たり前ですが使用し続けると劣化します。
したがって、メンテナンスの方法や頻度によって、本当なら30年使用できる製品も10年ほどで使用できなくなってしまうのです。
逆にいえば、年に1回の点検や、蓄電池やバッテリー、エンジンオイルといった劣化しやすい部品を定期的に交換すれば、耐用年数を延ばせます。
メンテナンスする必要性
非常用発電機は、エンジンで稼働し、発生した熱エネルギーを利用して発電する仕組みです。
自動車のように、エンジンによって動力を得る構造となっていますが、非常用発電機のエンジンは発電設備(ジュネレーター)を回転させる役割を担っています。
消防法や建築基準法によって設置が義務付けられている大型施設にある非常用発電機のエンジンは、ほぼディゼールエンジンです。
ディゼールエンジンは単純な構造をしているため、燃焼室で軽油を燃やしきれず、カーボンが発生しやすくなっています。
発生したカーボンは燃焼室や排気口周りに付着するため、メンテナンスを怠ると始動不良を起こしたり、エンジンが急に止まったりする可能性があるでしょう。
非常用発電機のメンテナンスは、耐用年数を延ばすだけでなく、正常に稼働させるために必要です。
メンテナンスを怠る危険性
非常用発電機は、高速道路や自動車道のほかに、マンションや学校、病院など多くの人がいる施設に設置してあります。
非常事態に重要な役割を担う非常用発電機ですが、何かしらのトラブルによって作動しなかった場合、被害を拡大する恐れがあるでしょう。
災害時にエレベーターが停止した場合、非常用発電機が作動しないと閉じ込められる可能性があります。
火災時に停電し、スプリンクラーへの電気供給ができなかった場合、消火できず被害がさらに大きくなる可能性もあるでしょう。
このように、非常用発電機のメンテナンス不足により二次災害が発生すると、場合によっては管理者や担当者に対して多額の損害賠償金が発生する可能性もゼロではありません。
非常用発電機のメンテナンスや修繕は、専門業者に依頼し、緊急時に正しく作動できる状態を保つ必要があります。
メンテナンス費用を削減する方法
年次点検の際に、消耗品を計画的に交換すればメンテナンス費用を削減できます。
具体的には、年次点検時に消耗品も交換しれば、作業員の人件費や交通費のコスト削減が可能です。
たとえば、設置した1年目にエンジンオイルとオイルフィルターの交換をし、2年目に冷却水と燃料フィルターを交換。
オイルとフィルター、冷却水を2年ごとに交換し、6年に1度の交換が必要な蓄電池や燃料、ホース類やベルト類を5~7年目のメンテナンスに計画します。
電圧測定や温度測定、警報試験といった総合点検はメンテナンス時に必ずおこなうため、機器が故障する前に予防対応が可能です。
非常用発電機に欠かせない負荷試験
非常用発電機は、負荷試験(負荷運転)も必要となります。
負荷試験は、30%以上の負荷を非常用発電機に発生させるため、実際に非常事態が起こった場合に近い運転性能を確認できる点検方法です。
試験を実施すれば、想定外の作動トラブルや故障を未然に防げるでしょう。
負荷試験は比較的安い費用で実施でき、作業も短時間で終了します。
メンテナンス同様に、負荷試験を怠ると、二次災害が発生した際に罰せられる恐れがあるため、定期的な専門業者への依頼がおすすめです。
専門業者には通常点検や総合点検を依頼でき、エンジンの稼働をスムーズにする潤滑油や冷却水、フィルターといった消耗品の交換もしてもらえます。
消耗品には、各メーターが推奨する交換時期があり、非常用発電機に使用している消耗品は使用頻度に関わらず経年劣化するため、定期的な交換が必要です。
消耗品の劣化は、非常用発電機の作動を鈍らせたり、事故を起こす原因になったりするため、注意しましょう。
非常用発電機の予防保全策に関する消防法
最初に予防保全とは、トラブルや故障が起こらないように事前に保全する業務を指します。
非常用発電機は予期せぬ災害や事故が発生した時は、必ず稼働しなければいけません。
設備管理者は、故障に対する備えや対策を用意することが不可欠です。
平成30年6月1日に「平成30年消防庁告示第12号」が公布され、非常用発電機の点検方法が見直されました。
予防保全に準拠する消防法の改正ポイントについて解説します。
内部観察等の追加
総合点検における運転性能の確認方法は負荷運転のみでしたが、負荷運転もしくは内部観察等と変更になりました。
内部観察では以下の項目を確認してください。
- 過給器コンプレッサ翼及びタービン翼並びに排気管等の内部観察
- 燃料噴射弁等の動作確認
- シリンダ摺動面の内部観察
- 潤滑油の成分分析
- 冷却水の成分分析
負荷試験の周期延長
予防保全策を毎年きちんと行えば、負荷試験の実施が6年に1回の周期に見直されました。
改正前の実施周期は1年に1回だっため、今回の改正により現場の負担が大きく軽減されたといえます。
しかし、負荷試験はあくまでも総合点検の1部に過ぎません。
総合点検自体は、毎年必ず実施しましょう。
また、点検後は所轄の消防署への報告も必須です。
報告を怠ると、非常用発電機の機能保全はできず、罰則を受ける恐れもあるため注意してください。
原動機にガスタービンを用いる自家発電設備の負荷運転は不要
以前はすべての自家発電設備が負荷運転の対象でした。
しかし、改正後は原動機にガスタービンを用いる自家発電設備の負荷運転は必要ありません。
換気性能点検は負荷運転時ではなく無負荷運転時等に実施
換気性能の確認は負荷運転時に実施されていましたが、改正後は無負荷運転時に実施するように変更されました。
予防保全策
非常用発電機の予防的保全策は、消防予373号で規定されています。
非常用発電機の不具合を予防するために、4ヶ所の確認と8項目の消耗品の交換を行いましょう。
確認すべき項目は、予熱栓、点火栓、冷却水ヒータ、潤滑油プライミングポンプの4ヶ所です。
- 予熱線 予防栓の発熱部に断線、変形、絶縁不良などがないか
- 点火栓 電極の異常な消耗やプラグギャップ値が製造者の指定値範囲内か、異常な燃焼物の付着がないか
- 冷却水ヒータ その他の部位より温度が高いこと、断線等の有無を確認
- 潤滑油プライミングポンプ 正常に作動しているか
メーカーが指定する推奨交換年内に交換が必要な消耗品は、以下の8項目です。
- 潤滑油
- 冷却水
- 燃料フィルター
- 潤滑油フィルター
- ファン駆動用Vベルト
- 冷却水用等のゴムホース
- 燃料、冷却水、潤滑油、給気、排気系統や外箱等に用いられるシール材
- 始動用の蓄電池
どのパーツも非常用発電機の稼働には欠かせません。
1ヶ所でもトラブルや故障が発生すれば、万が一の時に稼働しない可能性があります。
予防保全策は必ず行いましょう。
消防法で定められた負荷試験についてより詳しく知りたい方は、下記の記事をご覧ください。
非常用発電機の負荷試験は6年ごと!必要性や最新の改正内容を解説
非常用発電機の耐用年数はメンテナンスで変わる
本記事では、非常用発電機の役割や耐用年数、メンテナンスについて解説しました。
非常用発電機の法定耐用年は15年ですが、国土交通省官庁営繕所基準での耐用年数は30年です。
つまり、使用頻度や保管場所によって異なるものの、しっかりとメンテナンスを行えば機器の寿命を延ばせるといえます。
非常用発電機に限らず、機械や機器など使用頻度が多いものは定期的なメンテナンスを実施しましょう。
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