用途や設置環境によって最適なエレベーターを選ぶことは、快適性や安全性を向上させるだけでなく、長期的な維持コストの削減にもつながります。
本記事では、エレベーターの種類を用途別・構造別に解説します。
建物を管理するオーナーや施設管理者は、適切なエレベーターを選び、建物の価値を高めるための参考にしてください。
目次
用途別・エレベーターの種類
エレベーターは、設置される建物の種類や利用目的によってさまざまなタイプがあります。
- マンションやオフィスビルなど一般的な乗用エレベーター
- 荷物運搬に特化した荷物用エレベーター
- 人と荷物を同時に運搬できる人荷用エレベーター
- 寝台やストレッチャーに載せた人を輸送する寝台用エレベーター
- 自動車を運ぶためのエレベーター
それぞれの用途に適したエレベーターの種類と特徴を解説します。
乗用エレベーター
乗用エレベーターは、マンションやオフィスビル、商業施設などで人を運ぶ目的で広く使用される一般的なエレベーターです。
マンションによっては、かご内に トランク(荷物置き場) を設置しているエレベーターもあります。
大きな荷物の搬入やストレッチャーの利用がスムーズにできるよう工夫されている点が特徴です。
荷物用エレベーター
荷物用エレベーターは、工場や倉庫、商業施設などで使用される大型の荷物を運搬するためのエレベーターです。
重量物を安全に運搬できるよう高い耐荷重性能を持ち、床面には耐摩耗性の高い素材が使用されています。
人の輸送を目的としていないため、安全管理の観点から荷扱者または運転者以外の利用が禁止されてる点に注意してください。
荷物専用のため、利用者の安全確保のための手すりや座席などの設備が設置されていません。
労働安全衛生法により規定されている「簡易リフト」も、建築基準法施行令第129条の3の昇降機の規定が適用されます。
人荷用エレベーター
人荷用エレベーターは、人と荷物の両方を運搬できるタイプのエレベーターです。
病院やホテル、物流センター などで使用され、基本的には乗用エレベーターと同様の法規が適用されます。
寝台用エレベーター
医療施設向けのエレベーターです。
ストレッチャーや医療機器の搬送に対応するため、かごの大きさや扉の開口部が広く設計されています。
建築基準法施行令第129条の3により、ストレッチャーを日常的に使用する施設以外への設置は禁止されているので注意しましょう。
安全基準が厳しく設定されており、荷物の転倒防止や安全確保のための設備が強化されています。
自動車用エレベーター
駐車場ビルや自動車ディーラーなどで利用されるエレベーターで、車両を運搬するために設計されています。
高耐荷重仕様で車の乗降がスムーズに行えるよう、かごの内部は広く、扉の開閉速度が速いのが特徴です。
安全管理のために自動車の運転手以外の乗車は禁止されており、誤操作による事故を防ぐための安全装置が装備されています。
構造別・エレベーターの種類
エレベーターは、駆動方式や構造によって分類され、それぞれ特性が異なります。
- ロープ式は高層建築向け
- 油圧式は低層建築向け
- リニアモーター式は省スペースにも対応可能
建物の高さや用途に応じて適切な種類を選択することで、効率的かつ安全な運用が可能です。
代表的なエレベーターの構造について解説します。
ロープ式エレベーター
ロープ式エレベーターは、ワイヤーロープを用いてかごを昇降させる仕組みです。
省エネ性能が高く、モーター音が小さいのが特徴で、日本で広く採用されています。
ロープ式エレベーターには、大きく分けて「トラクション式」と「巻胴式」の2種類があります。
トラクション式(機械室ありタイプ)
トラクション式の機械室ありタイプは、エレベーターの最上部に機械室を設け、モーターや制御装置を配置して昇降を行う仕組みです。
かごと釣合おもりをロープでつり合わせ、重量バランスを取りながら昇降します。
トラクション式(機械室なしタイプ)
機械室なしタイプのエレベーターは、巻上機や制御装置をコンパクト化し、昇降路内に配置することで建物の上部に機械室を不要とした設計です。
建築物の設計自由度が高いため、マンションや中層ビルでの採用が増えています。
巻胴式エレベーター
巻胴式は、ロープを巻胴(ドラム)に巻き取ることでかごを昇降させる仕組みです。
かごと釣り合いを取るおもりがなく、シンプルな構造になっています。
油圧式エレベーター
油圧式エレベーターは、電動ポンプを用いて油圧シリンダーを動かし、その圧力でかごを昇降させる方式です。
主に低層建築で使用され、荷物用エレベーターや小規模な施設に適しています。
油圧式エレベーターは、以下の3つの方式に分類されます。
直接式
直接式の油圧エレベーターは、かごと油圧ジャッキが直結しており、ジャッキが直接かごを持ち上げる方式です。
間接式
間接式は、油圧ジャッキを滑車とロープまたは鎖を介してかごを昇降させる方式です。
直接式よりも設置スペースを抑えることが可能です。
パンタグラフ式
パンタグラフ式は、油圧ジャッキでアームの頂部に取り付けられたかごを昇降させる方式で、マジックハンドのような動きをします。
リニアモーター式
リニアモーターを利用し、回転運動を直線運動に変換してかごを昇降させる方式です。
従来のワイヤーロープを使わずに動作するため、省スペース化が可能です。
建物別・エレベーターの種類
エレベーターは、マンションや商業施設、オフィスビル、病院、工場などそれぞれの環境に適した設計が求められます。
建物別のエレベーターの種類と特徴について解説します。
建物の特性に適したエレベーターを導入して、安全性や利便性を向上させましょう。
マンション・住宅向けエレベーター
マンションのエレベーターは、住民が快適に移動できるように設計されています。
高層マンションでは、エレベーターの利便性が居住環境の質を左右するため、適切な台数の確保が重要です。
一般的に50〜70戸に1基 が目安とされており、住戸数や建物の高さに応じて必要な基数が決定されます。
商業施設向けエレベーター
ショッピングモールや百貨店などの商業施設では、多くの来店客が一度に利用するため、大型のエレベーターが必要です。
広いかごを備えたエレベーターが一般的で、ベビーカーやショッピングカートの利用を想定した設計が求められます。
エスカレーターと併用し、施設全体の動線を効率的に確保することも大切です。
デザイン性にも配慮され、ガラス張りのキャビンや装飾を施したエレベーターが導入される例も見られます。
オフィスビル向けエレベーター
オフィスビルでは、業務の効率化を目指し、エレベーターの待ち時間を極力減らす必要があります。
高速で動作可能なエレベーターが選ばれやすい傾向です。
AIを利用した運行制御システムを取り入れると、オフィスビル全体のエレベーター運用が最適化され、ピーク時の混雑緩和が達成できます。
病院・福祉施設向けエレベーター
病院や介護施設では、ストレッチャーや車椅子の利用を考慮した設計が不可欠です。
かごのサイズは通常よりも広めに設計されており、横幅1400mm以上・奥行き2400mm以上のものが多く採用されています。
停電時に備えた非常用電源を完備し、エレベーターの運行が停止しないようにする設計も欠かせません。
利用者が安心して操作できるように、低い位置に配置された操作ボタンや点字表示、音声案内などバリアフリー対応の仕様も必須です。
感染症対策の観点から、抗菌仕様のボタンや自動換気システムを搭載したエレベーターも増えています。
工場・倉庫向けエレベーター
工場や倉庫では、重量物の運搬を目的としたエレベーターが必要になります。
耐荷重性能が高く、1トン以上の重量物を搬送できる仕様が一般的です。
かごのサイズも大きく、フォークリフトでの積み下ろしが可能なものもあります。
屋外設置や粉塵が多い環境でも耐えられるように、防塵・防水仕様のエレベーターが採用されることが多いです。
エレベーターの保守・点検も種類で変わるのか?
エレベーターのリニューアルは、単に古くなった設備を入れ替えるだけではなく、エレベーターの種類ごとに最適な方法を選択しましょう。
なお、ロープ式と油圧式では必要な改修内容や費用、工期が異なります。
それぞれのリニューアル方法や注意点を紹介します。
ロープ式エレベーターのリニューアル方法
ロープ式エレベーターのリニューアルには、以下の方法があります。
- 全撤去リニューアル:エレベーターの機械部分や制御盤、かご、ワイヤーロープなどすべての設備を撤去して最新のエレベーターに交換する方法
- 部分リニューアル:エレベーター全体を交換するのではなく、老朽化した部品のみを交換する方法。制御盤やワイヤーロープ、ドアシステムの交換が対象
- 制御リニューアル:エレベーターの動作を管理する制御システムを最新のものに交換する方法。インバーター制御の導入により、省エネ化やスムーズな運転が実現
エレベーターの状態やコスト、工期なども踏まえて最適な方法を選択しましょう。
油圧式エレベーターのリニューアル方法
油圧式エレベーターのリニューアルには、以下の方法があります。
- 全撤去リニューアル:油圧ポンプや油圧シリンダー、制御盤、かごなどをすべて撤去し、新しいエレベーターを導入
- 部分リニューアル:老朽化した部品のみを交換し、既存の油圧システムを維持しながら安全性と性能を向上させる。油圧ポンプやシリンダーの劣化が進んでいる場合、結局大規模な改修が必要
- 制御リニューアル:エレベーターの制御盤や電気系統を交換し、最新の制御システムにアップグレードする方法
油圧式エレベーターはメーカーによっては生産終了している場合があるため、交換用部品が手に入らない点には注意しましょう。
独立系のエレベーターリニューアル業者であれば、制御リニューアルに対応しているケースが多いため、業者選定の際にはこの点も考慮してください。
エレベーターの種類ごとの特徴を押さえて、快適な運用を実現しよう
エレベーターの種類や構造を理解し、建物に最適なエレベーターを選びましょう。
マンションでは静音性や省エネ性が求められ、オフィスビルでは高速運行と効率的な動線設計が不可欠です。
また、定期的な保守点検による安全性維持も欠かせません。
株式会社ギアミクスでは、エレベーターの導入から保守管理まで一貫したサポートを提供し、快適な移動空間を実現します。
建物のエレベーター選定やメンテナンスに関するお悩みは、ぜひギアミクスにご相談ください。