キュービクルなど『自家用電気工作物』には保安点検が義務付けられており、毎月もしくは隔月1回の月次点検、毎年もしくは3年に1回の年次点検が必要です。
本記事では、キュービクルに必要な保安点検について詳しく解説していきます。
キュービクルの保安点検を怠ると停電や波及事故につながるだけではなく、感電や火災で人命を危険にさらす事態にもなりかねません。
ぜひ本記事を参考に、正しくキュービクルをメンテナンスしてくださいね。
目次
キュービクルとは
キュービクルとは正式名称『キュービクル式高圧受電設備』といい、発電所から送られる高圧電気を自社で低圧電気に変換する設備を指します。
キュービクルは『キューブ(cube)=立方体』から派生した名前で、立方体の設備の中に変圧器などの複数の設備が収められています。
ビルやマンションなどの屋上や建物の裏などに『変電設備』と書かれた箱状の設備がある場合が多いですが、この設備がキュービクルです。
コンビニやスーパーマーケットなど多くの電力を必要とする施設は、電力会社の変圧器を使用すると電気代が高くなってしまいます。
キュービクルを使えば電力会社の変圧器を使う必要がないので、その分電気代を節約できます。
キュービクルについてより詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にされてください。
キュービクルは法律で保安点検が義務づけられた自家用工作物
私たちが日ごろ使っている電気は、発電所から送られてくる6600Vの高圧電気を100Vや200Vに変換することで使用可能になります。
一般家庭などの場合、電力会社の変圧設備が電気を低圧に変換してくれますが、キュービクルは電力会社の変圧設備を使わずに変換が可能です。
このように、電力会社から高圧で受電する電気設備のことを『自家用電気工作物』と言います。
自家用電気工作物を設置した場合、電気主任技術者によって保安点検を実施することが『電気事業法』によって定められています。
実施しなければいけない点検は以下の通りです。
- 月次点検(毎月もしくは隔月1回)
- 年次点検(毎年もしくは3年に1回)
電気主任技術者を雇用できない場合は、『外部委託承認制度』によって業者への委託も可能です。
外部委託承認制度とは
『外部委託承認制度』とは、電気主任技術者を雇用できない場合に、外部の電気主任技術者に委託できる制度です。
委託できる技術者は、従来国が認めた法人や個人の電気監理技術者に限られていましたが、2004年に指定法人制度が廃止。
電気事業法施行規則第52条第2項に基づき、第一種・第二種・第三種電気主任技術者の所有者による検査が可能となっています。
(参考:平成七年通商産業省令第七十七号 電気事業法施行規則)
キュービクル保安点検の内容
キュービクルには毎月もしくは隔月での月次点検と毎年もしくは3年に1回の年次点検が義務付けられています。
検査頻度の違いは、以下の通りです。
- 月次点検:キュービクルに絶縁監視装置が設置されている場合は高い安全性が認められ、隔月点検が可能となる
- 年次点検:信頼性が高く、規定と同等の点検が年に1回以上行われる場合、3年に1回の点検が可能となる
(参考:主任技術者制度の解釈及び運用(内規)における無停電年次点検の適用の考え方について)
各検査内容について、詳しく解説していきます。
月次(隔月)点検項目
月次点検では、主に回路の漏電がないか、機器に異常な温度上昇が発生していないか、異音や異臭はないかを確認していきます。
点検内容は以下の通りです。
- キュービクルや区分開閉器などの外観を目視で点検する
- 電流が漏えいしていないか測定する
- 受電盤や配電盤の電圧、負荷電流を測定する
- 受電盤や配電盤のブレーカー温度を測定する
- 非常用発電機を手動で起動・停止させ、動作を確認する など
年次点検項目
年次点検では、高圧電力が流れる箇所に絶縁がないか、高圧ブレーカーの動作に問題はないかなどを点検します。
高圧電力が流れる箇所の点検なので、安全のために敷地内を全て停電させる必要があります。
点検内容は以下の通りです。
- キュービクルや区分開閉器などの外観を目視で点検する
- 絶縁抵抗を測定する
- 電気配線に異常が生じた場合に、電気系統から事故箇所を切り離せるか確認する
- 蓄電設備の電圧・比重・温度を測定する
- 非常用発電機を手動で起動・停止させ、動作を確認する など
キュービクル保安点検にかかる費用
キュービクルの保安点検は、外部委託しても1回1万円程度、大規模な施設でも5万円前後が相場です。
修理や交換が必要になった場合は数十万円~数百万円かかることが多いですが、キュービクルの保証や業者のサービス内容によっては無料でメンテナンスしてくれることもあります。
キュービクルの保安点検やメンテナンスにかかる費用は、以下の記事で詳しく解説しています。
キュービクルの値段はどのくらい?費用対効果や中古の相場も解説
キュービクル保安点検を怠った場合のリスク
キュービクルの保安点検には、年間で最低でも12万円程度かかります。
経費削減のために「少しぐらい点検しなくても問題ないのでは…」と考える方もいるかもしれませんが、キュービクルの保安点検を怠るのは以下のリスクがあり、非常に危険です。
- 停電事故
- 波及事故
- 感電・火災
- 電気代の損失
各リスクについて、詳しく解説していきます。
停電事故
キュービクルは、小動物の侵入や雨水の侵入などによって配電設備に異常が生じると、停電につながる恐れがあります。
敷地内で停電している間は作業ができないため、売上の減収や納期遅れなどにつながってしまいます。
例えばとある工場では、作業中に突如スパーク音が発生して敷地内が停電。
停電4か月前の年次点検では問題がなかったことから、数日前の落雷が原因であることが判明し、保険が適用されました。
保安点検は事故自体を防ぐのはもちろん、いざという時には責任の所在を明らかにしてくれます。
(参考:起こると怖い波及事故|日本テクノ株式会社)
波及事故
キュービクルの故障で停電が起きると、電力会社の配電線を通じて近隣に停電が広がる場合があります。
停電の影響が敷地外にも広がる事故を『波及事故』と呼び、工場や病院、交通機関などに影響が広がると多額の損害賠償が発生する可能性もあるのです。
上記で紹介した工場の停電事故も、自社だけではなく周囲の施設にも停電が広がる波及事故となりましたが、保安点検を実施していたために責任の所在が明らかとなり、業者の保証を利用できました。
キュービクルの波及事故の原因のうち、1番多いのが『設備の自然劣化』です。
保安点検を怠らなければ波及事故のリスクを大幅に減らせる上、万が一波及事故が起きても賠償額を減らすことができます。
(参考:平成29年度電気保安統計|経産省)
感電・火災
キュービクルは高圧電気を扱う機械であるため、劣化によって漏電が起きると作業員の感電や施設の火災につながり、非常に危険です。
実際、ケーブルの損傷に気付かずにいた結果漏電が発生し、スイッチに触れた清掃作業員が感電するという事故も発生しています。
感電や火災は人命に直接関わる事故であり、万が一被害者が死亡してしまった場合、どれだけお金を払おうと解決することはできません。
必ず保安点検を実施し、感電や火災を防止しましょう。
(参考:平成27年度の電気事故について ~感電又はアーク等による死傷事故詳細~|関東東北産業保安監督部)
電気代の損失
キュービクルは発電所の変圧器を使わずに電気を変換できる分、電気代を安くできるというメリットがあります。
しかし、キュービクルの保安点検を行わなければキュービクルの劣化が早まったり、劣化した部品を使い続けたりすることになり、電気の変換効率が悪化。余分な電力を必要とする可能性があるのです。
例えば変換効率が90%のキュービクルAと変換効率96%のキュービクルBを比較すると、900の電力を作り出すのに必要な電力は
- キュービクルA:1000
- キュービクルB:937.5
と、キュービクルBの方が62.5少ない電力で発電できることが分かります。
保安点検を怠ると気付かないうちに無駄な電力を消費し続けることにもなるので、節約のためにも保安点検を実施しましょう。
キュービクル保安点検を外部委託する際のポイント2つ
キュービクル保安点検は停電、波及事故、感電・火災、電気代の損失といったリスクを避けるためにも非常に重要ですが、それゆえに点検者にはたしかな技術と安全性が求められます。
キュービクル保安点検を外部委託する場合は、次の2点に注意して業者を選びましょう。
- 実績をみる
- アフターフォローの有無を見る
①実績を見る
キュービクルは、高圧電気を変換して送電するための複数の設備を1つの箱にまとめたものです。
それらの設備1つ1つを順番に点検し、問題の有無を確かめるには、専門的な知識と経験が求められます。
実績が少ない業者よりも、実績が多い業者の方が、設備の変化や劣化に関する知見が豊富です。
劣化を見逃さないよう、保安点検はなるべく実績が多い業者に依頼しましょう。
②アフターフォローの有無を見る
キュービクルは、保安点検をしても何らかの雷や大雨など何らかの理由で事故が起こる場合があります。
万が一事故が起きてしまった場合は、高い確率で売上の減収や損害賠償などにつながってしまいます。
補償サービスなどのアフターフォローを実施している業者を選べば、被害額を抑えることも可能です。
点検業者を選ぶ際は、事故などが起きた際にどんなアフターフォローを行っているかも確認しましょう。
キュービクルの保安点検で事故を予防!
キュービクルは発電所から供給される高圧電気を自社で変換できる『自家用電気工作物』で、
- 月次点検(毎月もしくは隔月)
- 年次点検(毎年もしくは3年に1回)
の保安点検が義務付けられています。
保安点検を怠ると停電や波及事故、感電・火災などのリスクが高まるので、本記事を参考に必ず保安点検を実施しましょう。