マンションの管理組合にとって、エレベーターの交換は大きな課題です。
なぜなら、エレベーターは交換によって安全を確保できる一方で、工事には多額の費用がかかるため慎重な検討を要するためです。
本記事では、マンションの工事規模別のエレベーター交換費用・交換時期の目安・費用削減のポイントを解説します。
巻上式と油圧式の違いなど、補足知識も合わせてご覧ください。
目次
【工事規模別】マンションエレベーターの交換費用相場
マンションのエレベーター交換費用は、工事規模によって異なります。
本章では、エレベーターの交換費用を工事規模別に解説します。
なお、本章で解説する費用相場は、あくまで目安です。
エレベーターの交換工事費用は、機種・設置場所・建物の構造・工事内容などによって変動する可能性があるため、具体的な金額は業者に確認してください。
全撤去リニューアル工事の費用相場は「1,200~1,500万円」
全撤去リニューアル工事とは、既存のエレベーターを完全に撤去して新しいエレベーターを設置する工事です。
エレベーター交換工事の中でも、最も大規模な工事となり、1ヶ月前後の工期が見込まれます。
建物の構造によっては、シャフトの補強工事なども必要になる場合があります。
準撤去リニューアル工事の費用相場は「700~1,000万円」
準撤去リニューアル工事とは、既存エレベーターの一部を流用し、そのほかは新品に交換する工事です。
交換する部分としては、かご・扉・制御盤などの主要部品など。
工期は2~4週間ほどと、全撤去リニューアル工事よりも短期間で実施されます。
制御リニューアル工事の費用相場は「400~700万円」
制御リニューアル工事とは、巻き上げ機・制御盤・配線など、制御系に関する部品のみを交換する工事です。
エレベーターリニューアルで交換しない部品や機器は別途リニューアル計画が必要となりますが、工期は最大でも2週間ほどです。
エレベーター交換時は建築確認が必要なケースが多い
マンションのエレベーター交換工事では、建築基準法に基づき、建築確認申請が必要となるケースがほとんどです。
特に、全撤去リニューアル工事や準撤去リニューアル工事など、大規模な改修工事を行う場合は必ず建築確認申請を行いましょう。
申請手続きには一定の期間と費用がかかるため、工事計画を立てる際には、余裕を持ってスケジュールを組み立てることが大切です。
建築確認申請の手続きや必要書類については、お住まいの地域の建築指導課などに確認してください。
マンションのエレベーターを交換するタイミングとは?
マンションのエレベーター交換は、高額な費用と長期間の工事が必要なため、適切なタイミングを見極めることが重要です。
本章では、マンションのエレベーターを交換するタイミングを解説します。
1.エレベーターが耐用年数を迎えた
マンションのエレベーターは、国税庁の減価償却基準では17年、国土交通省の長期修繕計画ガイドラインでは30年目とされていますが、25~30年目に交換を計画するのが一般的です。
一般的に知られているエレベーターの耐用年数は以下のとおりです。
- 国税庁減価償却基準:17年
- 国土交通省長期修繕計画ガイドライン:30年
- メーカー:20~25年
耐用年数を迎えている場合は、故障や事故のリスクが高いと考えられるため、早急な交換が必要です。
2.メーカーがエレベーターパーツの供給を停止
エレベーターの部品は、生産開始から一定期間が経過すると供給が停止されます。
たとえば、株式会社日立ビルシステムは、原則として機種生産終了後から20年が経過したところで保守部品の供給を停止することとしています(参考:日立製エレベーター。エスカレーターを所有のお客様へ)
エレベーターの部品交換ができない場合は、安全性の確保が困難になるのは明らかなため、供給停止となった時点で交換を検討すべきでしょう。
3.エレベーターのトラブルが増加
エレベーターの故障やトラブルが頻繁に発生するようになった場合も、交換の検討時期です。
小さな故障の積み重ねは、将来的に大きなトラブルにつながる可能性があるためです。
また、頻繁な故障は、居住者の安全や生活の質にも影響を与えます。
居住者の信頼を得るためにも、エレベーターのトラブルが増えたと感じた段階で交換を検討しましょう。
マンションエレベーター交換の費用削減のポイント
マンションのエレベーター交換は高額な費用がかかるため、費用削減は重要な課題です。
本章では、費用を抑えながら安全性を確保するための3つのポイントを解説します。
ポイント1.独立系の業者に依頼
エレベーターの交換工事は、メーカー系業者と独立系業者のどちらに依頼するかで費用が大きく変わります。
メーカー系と独立系の業者の違いは下記のとおりです。
- 独立系業者:価格は比較的安く、複数のメーカーに対応可能。技術力やアフターサービスの違いなどに留意する必要がある。
- メーカー系業者:技術力と保障体制は確実性が高い。対応メーカーは自社製品のみで、価格は比較的高い傾向がある。
価格重視で選ぶ場合は独立系業者、安心・安全を重視したいときはメーカー系業者を選ぶのが良いでしょう。
ただし、いずれの場合も複数の業者から見積もりを取り、価格とサービス内容を比較検討することが重要です。
ポイント2.定期的なメンテナンスの実施
エレベーターの定期的なメンテナンスは、交換時期を遅らせるだけでなく、交換費用そのものを削減する効果があります。
なぜなら、小さな故障の早期に発見・修理により、大規模な修理や交換を回避できるため。
一見、メンテナンス費用は無駄な支出のように思えますが、長期的な視点で見た場合は、大幅な費用削減に繋がる有効な手段です。
エレベーターのメンテナンス費用は、長期的な観点でとらえて費用対効果を考えることが大切です。
ポイント3.補助金対象かを確認
マンションのエレベーター交換工事には、国や地方自治体から補助金が支給される場合があります。
補助金の対象となる条件や申請方法は自治体によって異なりますが、積極的に活用することで、費用負担を軽減できます。
補助金制度を活用するメリットは以下のとおりです。
- 工事費用を削減できる
- 安全性の向上につながる
- 住民への負担軽減
補助金制度の詳細や申請要件は自治体のホームページや電話での問い合わせで確認できます。
エレベーターの交換は、補助金制度の活用によって、低コスト化を実現できる可能性があります。
【補足知識】マンションエレベーターはおもに2種類
マンションに設置されているエレベーターは、大きく分けて「ロープ式」と「油圧式」の2種類があります。
本章では、それぞれの仕組みや特徴などを解説します。
種類1.巻上モーターで制御「ロープ式エレベーター」
ロープ式エレベーターは、巻上機に設置されたモーターによって鋼索(ワイヤーロープ)を巻き上げ、エレベーターかごを昇降させる方式です。
多くの高層マンションやビルなどに採用されており、近年では機械室レスのタイプが主流となりつつあります。
機械室レスのロープ式エレベーターは、機械室を必要としないため、建物のスペースを有効活用できるというメリットがあるためです。
その一方で、設置条件が厳しくなる場合もあるため、導入を検討する際には専門業者への相談が不可欠なことを覚えておきましょう。
種類2.油圧ジャッキで昇降「油圧式エレベーター」
油圧式エレベーターは、油圧ジャッキによってエレベーターかごを直接昇降させる方式です。
低層マンションなどに多く採用されていましたが、近年はロープ式エレベーターの普及により、設置数は減少傾向にあります。
油圧式はロープ式に比べて初期費用が安く、機械室も比較的コンパクトにできるため、低層マンションには適していました。
しかし、速度が遅いことや、環境への配慮が必要な点、寿命が比較的短いといったデメリットも。
そのため、近年はロープ式エレベーターへの置き換えが進んでいます。
マンションのエレベーターはメンテナンス・交換で安全性を保とう
マンションのエレベーターは、居住者の安全・安心な生活に欠かせない重要な設備です。
適切な時期での交換はもとより、適切なメンテナンスも欠かせません。
本記事で解説した、おもな内容は以下のとおりです。
メンテナンス・交換における重要事項 | 詳細 |
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定期点検・保守 | 法律で義務付けられた定期検査に加え、より詳細な保守点検を行うことで、早期故障の発見や予防につながる。費用はかかるものの、大きな故障による費用負担を軽減する効果に期待できる。保守費用はエレベーターの速度や契約内容によって変動する。 |
部品交換 | 老朽化した部品を交換することで、安全性を高め、故障リスクを低減できる。 |
交換時期の判断 | 耐用年数(25~30年程度)、メーカーによる部品供給停止、故障増加などを総合的に判断する必要がある。早期発見・早期対応が重要。 |
交換工事の種類 | 全撤去リニューアル・準撤去リニューアル・制御リニューアルなど、工事規模によって費用が大きく異なる。現状を踏まえて工事の種類を検討することが大切。 |
建築確認 | エレベーター交換工事には、多くの場合、建築確認申請が必要。事前に確認し、手続きを進める必要がある。 |
費用削減策 | 独立系の業者への依頼・定期的なメンテナンスの実施・補助金制度の活用などを検討することで、費用を抑えることが可能。独立系業者を選定する際は、複数社から見積もりを取得し、比較検討することが大事。 |
マンションのエレベーターは、多くの居住者の生活を支える重要な設備です。
安全性を維持するためには、適切なメンテナンスと交換計画が不可欠です。
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